限り有る医学

2024年07月03日

漢方坂本コラム

最近、今まで仕入れていた薬を注文しても、

欠品していてありません、と言われることが増えてきている。

人気があり過ぎて在庫が無い、というわけではない。

むしろその逆、取り扱いを中止しているとのこと。

昔からお世話になっている漢方メーカーの薬ではあるが、

どうやら商品の製造自体が困難になっているという印象である。

父の代からずっと使い続けてきた薬であり、長いことお世話になってきた。

どちらかと言えばマイナなメーカーではあったが、扱いやすく効き目もある、とても良い薬だった。

それが注文しても来ない。生薬の原価が高くなっている今、商品の種類を削減しているのかも知れない。

欠品しているのだから仕方がない。ただ正直、とても困ってしまう。

何とか他のメーカーで探して事なきを得ているが、納得のいく品質のものを探すのにも一苦労である。

そもそもよく考えてみれば、昔はあったのに今はもうなくなった生薬や商品が、私の知る限りでもたくさんある。

昨今の流れと私の実感から言わせてもらえれば、漢方は確実に、年々その身を細くしてきていると思う。

漢方が流行っているという言葉を、たびたび耳にする。

ここ十数年の間に、漢方ブームと呼ばれるものが何回か起こっている。

そしてその頻度は、近年徐々に増えてきている。

科学合成された薬に対する違和感。自然や環境への感度が高い人ほど、漢方・東洋医学に注目されている印象がある。

確かに有機的な素材は強すぎず、弱すぎない。その刺激にはソフトな風合いがある。

だからこそ環境問題が浮き彫りになるにつれて、漢方薬が注目されるのは当然のことだろう。

ただ問題は、今後、求められるほどの量を供給し続けていけるのか、ということ。

生薬が枯渇し、供給が間に合わなくなる。

そしてそれはもう、実際に目の前で起こっていて、

現状、生薬の需要と供給とのバランスはすでに崩れている。

その証拠に、生薬の値段は年々上昇を続け、

10年前に比べれば2倍以上の値段になっているものも少なくはない。

先日の話、

ご来局された患者さまが、中国で処方されたという処方を持参された。

それを拝見させていただいて、改めて驚いた。

知っていたことではあったが、一日の生薬量がとんでもなく多い。

それが間違いかというと、そうではない。中国では昔から、日本にくらべて一日の生薬量が多い。

煎じる時の水が軟水か硬水かで抽出量が異なるという論文もある。中国では硬水で煮られるため抽出量が少ない。故に多量の生薬を必要とする見解もある。

とはいえ、、、と感じてしまう。この量を使い続けて、今後生薬の供給を保てるのだろうか。

生きた薬、生薬。科学的に合成できないからこそ、有限であり、当然手間がかかる。

そういうものは、今後必ず希少価値が上がり続ける。

原材料費が高くなる。とてもではないが、医療費が逼迫している日本では近い将来「保険」で漢方を飲むことは出来なくなるだろう。

50年後、30年後に漢方薬が生き残っていけるのかどうか。私は正直、楽観的に考えることができない。

その対策は、待ったなしで今、求められていると思う。

それを怠れば、おそらく東洋医学の中で漢方は、確実に消えていくと思う。

東洋医学発祥の時代、中国の漢。

最初に生まれた漢方薬は、たいへん「単純」で「素朴」な処方だった。

使うものはシナモンや生姜や紫蘇やナツメ。希少価値もそれほど高くない。

当たり前にそこら辺にある植物たち。これを、組み合わせで薬に変えるという発想が、東洋医学の根底にあった。

『傷寒論』の著者、張仲景。

彼が作り出した、原型たる漢方薬の特徴。

それは、簡素であること。後の時代ではそれ故に、貧乏人の医学と揶揄されたりもした。

しかし、この考え方こそが、今の時代に必要な価値観・考え方なのではないかと私には思えてならない。

単に勿体ない精神、ということではなく、

あくまで的確に使う、ちゃんと効く使い方をする、ということ。

張仲景がなぜ、このような簡素な薬を作ったのか。

それは、そのほうが的確に効くから。

用の美。機能を突き詰めれば、形は自ずと簡素化された美しさを伴うということ。

その哲学を、今一度私たちは見直すべきなのではないかと思っている。

大切に生薬を使うとは、

生薬の役割を、十分に発揮させることに他ならない。

私たちの「腕」こそが即ち、

これからの生薬の在り方と、漢方の存続とを決めていく。

大げさではなく、そういう時代になっていると私は感じます。



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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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