漢方治療の経験談「潰瘍性大腸炎治療」を通して

2024年06月05日

漢方坂本コラム

潰瘍性大腸炎。国が定める指定難病。

下痢を起こす疾患の中でも、長期的な治療を必要とする厄介な病です。

腹痛を伴う下痢を、一日4.5回、多いと10回以上起こし、

血便を起こし貧血を伴えば、身体の脱力感・疲労感も相当のものです。

著しく生活の質を下げてしまうこの病は、指定難病の中でも患者さまの数が多く、

当薬局でも今までかなりの数の患者さまからご相談を受けてきました。

先日カルテを見返してみたら、昔はこんな治療を行っていたんだぁなと当時のことを思い出しました。

現在行っている私の治療は、当時のものとは使う方剤のみならず、考え方から全く違っています。

多分これは紆余曲折を経ながらも、成長したということだろうと。

潰瘍性大腸炎だけでなく他の病でもいえることですが、

今までやってきたその道のりと変化とを想うと、少々感慨深いものがあります。

最初のうち、私はこの病で良く使われる漢方薬をそのまま使っていました。

例えば潰瘍性大腸炎に良く使われる胃風湯いふうとう

その意味合いで桂枝加芍薬湯に千金内托散を合わせて出したりしていました。

また体力のある人には黄芩湯とか。少々弱さがあれば、柴胡桂枝湯や半夏瀉心湯を使ってみたり。

漢方の書籍にそう書かれていたからです。潰瘍性大腸炎には胃風湯が良いとか、柴胡桂枝湯を使って効果があったとか、病態は「湿熱」であるとか書かれていました。

でもダメでした。あまり効いてくれません。

本の通りにやったのに効かない。嘘ばっかり、と思いました。

そして失敗を繰り返しながら、徐々に分かってきたのは、

どうやら漢方治療は、その答えが本には書いてない、自分で見つけるしかない、ということです。

でもこれは、考えてみれば当然のことでした。

治療において漢方薬は使うけれどもその使い方は詳しくない、という先生は多いと思います。

漢方は確かに難しい医学だと思います。そしてその理由の一つは、書籍に答えが書いてないという点が大きいと思います。

ある特定の病を治そうと思っても、その記載があまりにも少ない。

また本によってかなり違っていたりする。処方の使い方の基準も、分かりにくいものが多いと思います。

それには理由があります。

病が変化しているからです。

昭和・平成・令和と時代を経ることで、病はどんどん変化しています。

潰瘍性大腸炎の患者数は、毎年約一万人ずつ増加しているそうです。

病の質や規模などが昔とは違います。その変化のスピードに、漢方の医学としての対応が全く追い付いていないのです。

特に新たな西洋医学的治療が開発されれば、それによって病の質はまた変化し、漢方薬の使い方も当然変わってきます。

つまり本があったとしても、その内容はすぐに古いものになる。

一時有名になった「青黛」でさえ、私からすればもうすでに古い治療です。

故にある特定の病の治し方を本で調べても、そこには今の正解・・・・が載っていないという現象が起きる。

特に自己免疫が絡むような疾患では、その傾向が強いように感じます。

歴史によって成り立つ医学。

そして歴史に敬意を払う医学。それが漢方です。

昭和時代の書物に書かれていることが、金科玉条きんかぎょくじょうの如く大切にされる。

そしてそれが「答え」だとされる。

たとえ現在の臨床において、それが間違えであったとしても、です。

過去に答えがある。漢方は過去に完成されている。

そういうイメージがありますが、それは間違いです。

歴史を学び、歴史に敬意を払うことは大切ですが、

現在の病にちゃんと効果を示さなければ、歴史に敬意を払っているとは言えません。

なぜならば効かなければ、漢方は廃れてしまう、

歴史は続いていかないから。

潰瘍性大腸炎は治る病です。

難しい病ではありますが、改善へ向かうことが多い。

十数年ご相談を受けてきた中で、東洋医学をお勧めできる病であると確実に言えます。

そしてその治し方、治療方針が比較的はっきりしている病でもあります。

経験を経てきた今だからこそ、そう感じますが、

ただし今の私のやり方でさえ、時間が経てばまた古くなります。

病の変化に合わせて、治療方法を変化させていく。

過去になかった病への治療方法を、経験を基に新しく作り出していく。

そうやって常に新しい解釈を続けてきた。それが漢方の歴史です。

温故知新。良く言われるこの言葉は、

言うことは簡単。でも行うことはとても難しい。

治せるようになってきたからこそ、

それを完成させない努力を続けていく。

我が国日本において、患者数が急増している潰瘍性大腸炎。

今後も変化していくであろうこの病から目が離せないと感じています。



■病名別解説:「潰瘍性大腸炎

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら