□不眠症・睡眠障害 ~漢方薬で治しやすい不眠の特徴~

2021年12月27日

漢方坂本コラム

□不眠症・睡眠障害
~漢方薬で治しやすい不眠の特徴~

<目次>

■治しやすい不眠症と漢方治療の特徴
1、ある種の疲労状態を伴う方
2、胃腸に乱れのある方
3、月経周期に伴い不眠が起こる方
4、動悸や不安感などの自律神経症状を併発されている方

漢方治療と不眠症・睡眠障害

いくら不眠に用いられるといっても、漢方薬は決して睡眠導入薬ではありません。したがって直接的に眠らせることは難しい、というのが正直なところです。

しかし、眠れなくなっている身体の不調を総合的に改善することで「自然な眠り」へと導きます。

良く起こるのが、主たる症状が改善していく過程で、不眠も同時に解消されてくるという現象です。頭痛や疲労などの治療中、それらの症状が治っていきながら眠りも改善してくるということがしばしば起こります。

そしてどのような病であれ、睡眠障害はその背景に付随してきやすい症状です。臨床に携わっていると、眠れないという症状がいかにありふれているのかを実感することができます。

そのため漢方では「寝つきが悪い・眠りが浅い」といった睡眠障害を治療する機会がたくさんあります。そういう意味で不眠・睡眠障害は、漢方治療の得意分野だと言えるかもしれません。

ただし、すべての睡眠障害が漢方薬で改善するかというと、やはりそうではありません。

体の中から改善していくという特徴がある故に、漢方治療では難しいだろうと思われる睡眠障害もあります。

ただ一方で、効く時はちゃんと効いてくる、また時に、かなりの即効性をもって効果を発揮することがあることも確かです。そこで今回、どのような患者さまに漢方治療をお勧めできるのかということを、この病における漢方治療の特徴と共に解説していきたいと思います。

あくまで私自身の経験に基づく見解ではありますが、漢方治療の定石からはそう離れてはいないと思います。不眠症状改善のための参考情報としてご活用いただければ幸いです。

治しやすい不眠と漢方治療の特徴

漢方治療では一つの症状を改善する場合でも、からだ全体の症状を包括的に捉えなければなりません。

眠れないならこの薬、と決まっているわけではありません。お体から不眠の原因を探り、病態を掴んでからでないと薬方を選択できないという治療上の宿命があります。

したがって治療においては病態を掴み取れるかどうかが全てです。把握しやすいほど処方を選択しやすい、そして的確に効かせやすいというのが漢方治療の特徴です。

つまり「治しやすい不眠」とは、患者さまのお体に原因となる病態が明らか、かつ分かりやすく存在しているケースです。不眠はいくつかの特徴的な病態から派生することが多く、それが分かりやすいほど、治しやすいという印象があります。

中にはかなり専門的な内容のものもありますので、全ての病態をご紹介することは難しいのですが、かなり分かりやすいものもあります。そこで、ここでは説明しやすいものをいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。

病態を把握しやすい、すなわち「治しやすい不眠」には以下の4つが上げられます。

1、ある種の疲労状態を伴う方
2、胃腸に乱れのある方
3、月経周期に伴い不眠が起こる方
4、動悸や不安感などの自律神経症状を併発されている方

それぞれについて、詳しく解説していきましょう。

ある種の疲労状態を伴う方

疲労感はある意味、原始的な症状です。

疲れるという状態は人であれば必ず経験します。古今東西関係なく、常に人間に付きまとってきた症状です。

そのため東洋医学においては、古くからこの疲労についての研究がなされてきました。そして血流と疲労感との関係性が着目され、それを古人は血痺虚労けっぴきょろうという一つの病態として提示しました。

およそ2000年前に提示されたこの「血痺虚労」という病態は、人体の血流が滞ると疲労倦怠感が発生し、さらにそこから派生して、一種の興奮状態を伴うという現象を紹介しています。

例えば、疲労とともにソワソワして落ち着かなくなったり、恐怖心にかられて驚きやすくなったり、時に動悸や不安を伴ったりといった興奮症状が発生してきます。

さらに、夢ばかり見て深く眠れなくなったり、目が冴えて眠れなくなったりといった睡眠障害も同時に併発してきます。確かに臨床においても、ある種の疲労状態がこのような興奮症状を発生させることを実際に確認することができます。

このような「血痺虚労」に伴う不眠は、私見では比較的治りやすいものに属しているという印象があります。深く眠れるようになると同時に興奮が落着き、ソワソワ感や不安感、そして倦怠感が改善されてくるということがしばしば起こります。

さらに血流が改善されるため、体の冷えなども取れてきます。体の中から温泉に入ったような感覚で、じんわりと体の芯が温まることで自然な眠気が生まれてくる。そして深く眠れるようになることで、諸症状が改善してくるという反応が体に起こるのです。

この効果はかなり分かりやすく実感することができます。睡眠導入薬に負けずとも劣らない即効性を発揮することも多々あります。

そのため不眠治療に用いられる漢方薬は、虚労を改善するものが多く存在します。桂枝加竜骨牡蛎湯けいしかりゅうこつぼれいとうを筆頭に、小建中湯しょうけんちゅうとう当帰建中湯とうきけんちゅうとう酸棗仁湯さんそうにんとう、そしてしばしば不眠に用いられる帰脾湯きひとう加味帰脾湯かみきひとう十全大補湯じゅうぜんたいほとうなども、方意をくみ取れば全て「虚労」に属する病態の治療薬です。

ただし、疲労感が伴う不眠ならば、何でもこれらの薬で治るかというとそうではありません。血痺虚労は疲労状態の一種にしか過ぎず、そのため先ずはこの病態を正確に掴み取れるかどうかが勝負になります。

また血痺虚労であったとしてもその詳細は千差万別です。各処方によって適応する病態がかなり異なりますので、当然その見極めには専門的な知識が必要になります。

的確に効かせることができれば即効性高く効果を発揮し得る病態です。したがって疲労感を伴う不眠に悩まれている方であれば、漢方は高い確率でお力になれる医療だと思います。

胃腸に乱れのある方

東洋医学では、胃腸を単なる消化管とは考えていません。

胃腸は「緊張・興奮とリラックスとを切り替えるための要所」です。そう捉えることで、古くから胃腸薬をもって身体の自律神経を整えるという試みがなされてきました。

古人は胃腸活動の乱れが身体の興奮や緊張を誘発させてしまうということを、鋭い観察眼をもって把握していたのだと思います。これは現代においても実際に確認される現象で、そういう目で見ると確かに胃腸に乱れのある方では、不眠・睡眠障害を併発されている方が多くいらっしゃいます。

眠りが浅い・寝つきが悪いといった症状がある方で、もし胃腸に不具合を感じていたとしたら、むしろそれはチャンスだと思ってください。漢方治療によって改善する可能性が高いと思います。

胃もたれや胃痛、便秘や下痢などは、不眠治療において無視のできない症候です。不眠の原因が胃腸にある可能性を示すサインになるからです。

胃腸と不眠とに関連を持つ病態を治療していく際は、一つの処方をもってこれらが同時に解決していきます。例えば有名な胃腸薬である六君子湯りっくんしとうにもそういう効果があります。六君子湯は胃の不快感を消し、食欲を高めるとともに、うつ症状や不眠を同時に改善するという処方でもあります。

そのため漢方に精通した先生であれば、六君子湯を心療内科領域でしばしば使用します。胃腸活動がからだ全体の要所であるということを利用した、非常に東洋医学的な治療方法です。ただし、漢方には六君子湯の他にもたくさんの胃腸薬があります。半夏瀉心湯はんげしゃしんとう温胆湯うんたんとうなども不眠に効く胃腸薬ですが、それぞれで使うべき病態は全く異なります。

そして、あくまで正しく適応する病態に使わなければ、効果を発揮することができません。漢方ではたくさんの胃腸薬が用意されているだけに、その見極めにも専門的な知識が必要になってきます。

ともあれ、不眠の方で胃腸に乱れを感じるならば、ぜひ漢方治療をお勧めいたします。上手な治療が行われれば、不眠と同時に胃腸も改善します。胃腸がからだ全体の要所であることを、実感していただけると思います。

月経周期に伴い不眠が起こる方

月経前において、眠れなくなるという方はかなり多いと思います。

一日・二日ほど眠れない日があるという方もいれば、不眠が一週間続いてしまうような強い睡眠障害に悩まされてしまう方もいます。

不眠の強弱に関わらず、それが月経に絡んで起こるということであれば、漢方治療を強くお勧めいたします。

月経前症候群は、漢方治療の得意分野です。ホルモン剤に頼らざるを得ない西洋医学に比べて、漢方では穏やかかつ効果的な薬がたくさん用意されています。

月経前というのは誰しもが興奮状態へと向かっていくものです。少しイライラしやすくなる、食欲が増えるというくらいであれば、正常の範囲内ですので特に問題はありません。

しかし強いイライラや気持ちの浮き沈み、頭痛や便秘などの症状によって不快感が強い場合は、これを「月経前症候群(PMS)」といいます。その際、夜眠れない・熟睡できないという睡眠障害も起こりやすくなってきます。

この月経前症候群に対しては、漢方ではさまざまな薬が用意されています。月経前の不調を総括的に捉えることで、諸症状とともに不眠も改善してくるということがしばしば起こります。

その有効性から、今ではほとんどの婦人科で漢方薬が処方されるようになりました。加味逍遙散かみしょうようさん桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん当帰芍薬散とうきしゃくやくさん温経湯うんけいとうなどが有名です。

ただしPMSに伴う不眠を治療しようとすると、これらの薬だけでは正直対応が難しいという印象があります。そのため特にこれらの薬を飲んでも改善しなかったという方であれば、より専門的な漢方治療を行える医療機関におかかりになることをお勧めいたします。

動悸や不安感などの自律神経症状を併発されている方

なぜ漢方薬が不眠に効果を発揮するのか、その理由はおそらく、身体の自律神経に作用を及ぼすからです。

自律神経は、体の緊張・興奮とリラックスとを調節する神経です。何らかの理由でこの調節が乱れると、緊張と興奮とが継続することで「眠る・起きる」という調節も同時に乱れてきます。

そして不眠に悩まれている多くの方には、この自律神経の乱れがどこかしら介在しているものです。その乱れを是正していくからこそ、漢方薬は不眠を改善し得る薬になるのだと思います。

自律神経は体に備わる巨大なネットワークです。そのため現代の医学をもってしても、未だにその詳細は分かっていません。

しかし漢方ではこの乱れを、独自の視点をもって把握してきました。緊張・興奮とリラックスとを切り替える要所のような部位を経験的に掴み、そこに作用を及ぼすことで自律神経を調節するという手法を編み出してきました。

的確に行うことさえできれば、使わなければもったいないと思えるほどの現実的な効果を発揮する手法でもあります。ただし五臓や気血水などの基礎理論とは一線を画す、より本質的でかつ専門的な考え方が必要になってきます。

自律神経に対して独特の治療方法をもつ漢方ですが、特に有意義なのが、さまざまな症状が多発しやすい「自律神経失調症」のような病です。

多くの症状が出現するということは、体がそれだけ自分の状態を表すサインを発しているということです。すなわち自律神経失調症は、病態を把握するための判断材料が多く備わる病でもあります。

漢方は血液検査や画像によってお体を把握する医学ではなく、あくまで体の中に何が起こっているのかを想像する医学です。したがって判断材料が多いほど、体の状態が把握しやすくなります。逆に不眠以外には症状が無いという場合であればあるほど、ある意味で漢方家泣かせという傾向が出てきます。

自律神経失調症にはかなり複雑に絡みあったケースもありますので、一概に全てが治しやすいわけではありません。特に敏感さが非常に強いという場合では、かなり丁寧かつ慎重な治療が求められてきます。

しかし自律神経症状を介在させている方ほど、西洋医学に比べて漢方治療が適応しやすいというのも確かです。不眠以外にもさまざまな症状に苦しめられているという方であれば、一度漢方専門の医療機関にお足をお運びいただくことを強くおすすめいたします。



■病名別解説:「不眠症・睡眠障害

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