□変形性膝関節症
~漢方薬による治療方針と現実的な効果~
<目次>
東洋医学ではどう捉えるのか
■膝の痛み・二つの治し方
完治へと導くために
■良くなっても急には使い過ぎない
■運動療法を並行する
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膝軟骨の質の低下により、膝に痛みを生じる「変形性膝関節症」。
飲み薬、特に漢方薬で良くなるというイメージはあまりないと思います。
しかし昭和時代、名医大塚敬節先生を中心にこの病の治療が盛んに研究され、効果的な治療を編み出してきました。
確かに要点さえ捉えれば、この病は漢方薬で回復することが多いものです。私もコツを掴んでからは、治療に困ることの少ない病になりました。
大塚敬節先生は、変形性膝関節症に防己黄耆湯を良く使いました。
今でも医療機関でしばしば使われます。しかし防己黄耆湯は、それ単独ではあまり効き目を示しません。
それもそのはずで、大塚敬節先生は防己黄耆湯を使う際、かならず改良を加えていました。
桂皮や麻黄を加えたり、他の処方と合わせたりと、状況によって変化させながら対応することでこの方剤を使っていました。
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「この薬が効く」と一旦論文に出されれば、その薬を一律的に使用してしまうという現象は漢方では良くあることです。
そして結局この薬効かないね、となる。それは薬のせいではなく、処方を固定的なものとして扱ってしまう使用者に責任を負う所があります。
そこで今回は、この薬を使うとか、この薬が効くとかという説明は一旦置いておきます。
そうではなく、この病をどう捉えるのか、どう治っていくのかという点について、私の経験を述べてみたいと思います。
東洋医学ではどう捉えるのか
変形性膝関節症は年齢や体重負荷などにより、膝関節の軟骨の質が低下し、少しずつすり減り、歩行時や立ち座りの時に膝の痛みが出現する病です。
炎症を伴い痛みを生じることから、病院ではしばしば消炎鎮痛剤が使用されます。
しかし効いても日々活動の中で負担がかかればまた痛みを生じるため、痛み止めが手放せなくなります。
またそもそも消炎鎮痛剤では痛みが取れないことも多いものです。近年消炎鎮痛剤が効果を及ぼす炎症の原因因子が、初期から進行していくとかえって減少していくことも明らかになりました。消炎鎮痛薬が効きにくい変形膝関節症があることを、裏付ける結果となっています。
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しかし、このような消炎鎮痛剤が無効のケースであっても、漢方薬により炎症と痛みとが抑えられることがままあります。
その理由は、消炎鎮痛作用の機序が西洋薬とは異なるためです。
私見ではおそらく、漢方薬は血管系に作用を及ぼすことで、炎症部位の充血を抑えていくからではないかと考えています。
総じて漢方薬は血流への作用が主として発現することで、炎症を鎮め、それが起こりにくい状態へと導いているような印象があります。
■膝の痛み・二つの治し方
そして変形性膝関節症における漢方による血流への作用には、大きく分けて二つあると考えています。
一つは強い炎症を起こしている時の充血を解除する作用、そしてもう一つは血流を促すことで組織の回復やダメージの回避を行う作用です。
例えるならば、前者は炎症部位に集中する血液を散らす治療で、後者は乏しい患部の血流を促し回復させる治療です。
これらは血流に対して逆の治療を行うことになるため、状況に合わせて治療を選択する必要があります。
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もし炎症が酷く膝の腫れが強い場合には、充血を解除して炎症を抑える前者の治療を行います。これを「標治」といいます。
使われる処方は越婢加朮湯がその代表格です。麻黄や石膏といった生薬の配合を持つ薬が良く使われます。
逆に炎症はそれほど強くはないが、下肢の冷えや下肢筋肉の萎えが顕著な場合。血流を促して患部の回復を図る後者の治療を行います。
これを「本治」といいます。桂枝加苓朮附湯や芎帰調血飲第一加減などがしばしば用いられます。
大雑把に言えば、変形性膝関節症の漢方治療の主軸はこの二つです。
ただしこれらの状況は混在している場合も多く、標治と本治との間を取るなどの配慮が必要になる場合もあります。
ただし私見では、もっとも重要なのは「標治」であり、いかに炎症を抑え腫れを引かせるかという点が肝要です。
いくら本治を行い続けていても、変形性膝関節症による痛みはいつまでも引かない。そういう経験が私にはたくさんあります。
漢方には炎症の引かせ方、その手法がいくつかあり、先ほどご紹介した標治薬の越婢加朮湯はその一つです。
数ある処方を状況に応じて的確に使い分けることで、消炎鎮痛剤でも効かなかった痛みが即効性をもって引いてくという現実も、しばしば体験するところです。
完治へと導くために
ひとたび漢方治療が功を奏し、痛みが改善されたとします。
ただしそうであってとしても、この病ではもろ手を挙げて喜ぶことはできません。
この病はある程度の期間、治療を継続していくことが必要になります。
膝は日常生活の中で確実に負担を受ける場所です。そして年齢とともにどうしてもその回復は遅くなることから、再発しやすいことがその理由です。
したがって漢方薬によって痛みが引いてきたとしても、油断せずに治療を続けていかなければなりません。
すぐに治療を止めると必ず再発する、それが変形性膝関節症の特徴です。日常生活の中で気を付けることがあり、その努力がこの病の安定を図る際に大変重要になります。
■良くなっても急には使い過ぎない
痛みが回復していくと、人はどうしても活動量が増えていきます。
歩く時間が増えて、今まで出来なかった姿勢や運動が出来るようになります。
しかし漢方薬で痛みが引いたとしても、膝軟骨の摩耗がすぐに回復するわけではありません。
日常的に膝の負担が増えれば、今まで活動量が制限されていた分、逆に大きな負担となって今まで以上に腫れて痛くなってしまう方が時折いらっしゃいます。
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治療を始めて間もないうちは、たとえ痛みが引いてきたとしても決して油断しないことが大切です。
いきなり活動量を増やさない。あくまで膝を労わる生活を心がけてください。
足が衰えてしまうため確かに運動することは大切です。しかし膝が回復していないうちは、あくまで負担を避ける方に重点をおくべきです。
■運動療法を並行する
西洋医学において、変形性膝関節症の治療では手術以外の方法として薬物治療(消炎鎮痛薬)と運動療法とがあります。
私見ではこの「運動療法」が非常に大切で、努力を必要としますが続けていけば的確に効果を発揮します。
漢方治療においてもそれは例外ではなく、手術を行わずに完治させるであれば運動療法は必須だと言えるでしょう。
治りにくい変形性膝関節症には筋力の低下が必ず関与しています。骨を支えているのは筋肉であり、さらに血流を促すエンジンも筋肉です。
漢方治療においては標治的に炎症をしっかりと鎮め、本治は薬ではなく、運動療法によって行うというのが最も効率が良いと思います。
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したがって運動療法は必ず行うべき治療ではありますが、一方で間違えたやり方は逆に悪化させてしまうため、あくまで的確に行う必要があります。
先に述べたように筋肉を鍛えようとむやみやたらにウォーキングしたり、走ったりすることは絶対に止めること。
自己流は危険です。あくまで膝関節に負担なく筋肉を鍛えることが重要で、詳しくは「日本整形外科学会」で出している資料を下にリンクしておくのでそちらを参照してください。
また変形性膝関節症専門の先生におかかりになれば、より細かな運動療法を指導してくれると思います。
筋肉は決して裏切りません。的確な方法さえ行うことができれば、手術をしなくても完治できる方も少なくはありません。
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西洋医学には手術という最終手段があります。
重症例でも劇的に改善する可能性のある優れた治療ではありますが、当然リスクはあります。できればそこまでいかずに解決することが望ましいでしょう。
そのためには薬による炎症のコントロールと、適切な生活・養生が必要です。
一番最初に述べたように漢方薬で回復するというのは信じがたいかもしれません。しかし的確な治療さえ行うことができれば、完治へ向かう方も多く、有益な治療であることは間違いありません。
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■病名別解説:「変形性膝関節症(膝の痛み)」