□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 ~漢方薬で治る?その実際のところ~

■蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 〜不快感の強い鼻の病〜

顔面に起こる症状は特に不快なものです。目や鼻といった感覚器は休むことなく働き続けていますので、そこに不調をきたす病は、継続的な不快感を人に与え続けます。鼻の奥、つまり鼻腔やそのさらに奥である副鼻腔に慢性的な炎症を生じ、痰や膿が詰まる慢性副鼻腔炎や蓄膿症は、鼻づまりや後鼻漏(鼻の奥から咽に痰が垂れる症状)、さらに顔面の痛みを発生させます。顔に不快な症状を発生させる疾患として、その最たるものと言えるのではないでしょうか。

これらの疾患は、西洋医学的治療によって完治に至らないケースが散見されます。そのため治りきらないこれらの病でお悩みの方は多いと思います。ネットで調べると漢方薬が良いということが沢山書かれていますが、今回は私の経験をもとに、それが本当なのかという点を解説していきたいと思います。

■漢方治療が選択されやすい理由

慢性副鼻腔炎や蓄膿症、またそれに伴う鼻閉や後鼻漏を治療していく時、最近では漢方治療が選択されやすくなってきました。病院にて西洋薬と漢方薬との両方が出されるということが一般的になりつつあります。

これにはいくつか理由があります。そしてこの理由を知ると、なぜ漢方薬が良いと言われているのかが理解できます。そこで先ずは漢方治療が選択され始めた理由を解説したいと思います。

1、痰の発生機序と最も良い治り方
副鼻腔炎や蓄膿症の治療においては、副鼻腔に起こる「炎症」と、そこに溜まる「痰」との関係を理解しておくことが重要です。

蓄膿症や慢性副鼻腔炎は細菌によって起こります。細菌に対して炎症が起こり、その炎症の結果、菌の死骸などが痰となって副鼻腔に発生します。急性炎症期、つまり炎症の勢いが強い時は、この痰も勢いよく発生します。それと同時に、痰を外に排出しようとする体の自己治癒反応も強く起こります。そして徐々に炎症の勢いが弱まってくると、痰の発生が少なくなっていきますが、同時に痰を排出しようとする体の反応も弱まってきます。

強く炎症が起こっている時に、痰がしっかりと排出され、その後炎症が落ちつき痰が発生しなくなる、というのが最も良い治り方です。この時もし痰が排出しきれないままでいると、とても厄介なことになります。副鼻腔という鼻の奥にある洞窟はとても複雑な3D構造をしています。したがって一旦そこに痰が溜まると出にくくなり、いつまでも残り続けるということが良く起こります。

そして溜まった痰は細菌を繁殖させる温床になります。炎症が落ち着き副鼻腔炎の症状(頬や前頭部の痛みなど)がなくなったとしても、痰が溜まってままでいると細菌に感染しやすくなり、炎症を再発させやすくなります。これが慢性副鼻腔炎や蓄膿症、またいつまでも治りきらない後鼻漏の原因です。

すなわち副鼻腔炎の治療では、いかに鼻腔や副鼻腔に痰を残さず炎症を終了させるか、ということが重要になってきます。

2、副鼻腔炎における抗菌剤の効果とその弊害
副鼻腔炎の原因は細菌による炎症ですから、抗菌剤を使うことが一般的です。抗菌剤は炎症の根本原因を叩くことで、強い消炎効果を発揮することができます。炎症の勢いが強い急性副鼻腔炎などでは、抗菌剤が迅速にその効果を発揮することも少なくありません。

ただし抗菌剤には痰の排出を促す効能がありません。したがって痰の排出を強めずに抗菌剤で炎症だけを抑えてしまうと、副鼻腔洞に痰が残りやすくなってしまいます。さらに抗菌剤は炎症を強力に抑える一方で、同時に痰を排出させようとする身体の自己治癒反応自体も終了させてしまいます。つまり抗菌剤に頼りすぎる治療は、痰を残存させてその後の慢性副鼻腔炎や蓄膿症への移行を助長させてしまうことにもつながるのです。

そのため慢性化する副鼻腔炎では、抗菌剤治療の優先順位が低くなります。実際に、痰の排除を主として行わなければならない慢性副鼻腔炎や蓄膿症では、抗菌剤が効きにくくなります。

3、漢方薬特有の薬能「排膿(はいのう)」
そこで注目されてきたのが漢方薬です。漢方薬には「排膿(はいのう)」という薬能をもった処方がいくつかあります。そしてこれを併用することで痰の除去を強めることができます。

西洋薬には痰の除去を促すための内服薬が無いため、そこを狙って漢方薬が頻用されるようになったわけです。特に慢性副鼻腔炎や蓄膿症といった痰の除去を主として行わなければならない疾患では、むしろ漢方薬の方が第一選択的に用いられるようになってきています。「排膿」の効果を期待して用いられる漢方薬にはいくつかありますが、その代表的なものが「排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)」です。また副鼻腔炎では特に「桔梗石膏(ききょうせっこう)」という薬や、「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」という炎症止めもよく併用されます。

■排膿したいから「排膿散及湯」を使う・この使い方では排膿出来ないという事実

慢性副鼻腔炎や蓄膿症、またいつまでも治りきらない後鼻漏に漢方薬が選択されている理由は以上の通りですが、では実際に副鼻腔洞に溜まった痰を漢方薬で排出させることができるのでしょうか?

回答はYESです。しかし条件付きです。排膿したいから一律的に「排膿散及湯」や「桔梗石膏」を使うというやり方では、おそらくいつまで経っても排膿させることは出来ません。実際に耳鼻科でこれらの漢方薬を出され服用を続けていても、一向に痰が排出されないという方は多いと思います。これはなぜでしょうか。

答えはいたってシンプルです。排膿はあくまで状況によって排膿のさせ方を変化させることで初めてその効果を発揮するからです。東洋医学では膿を生じる疾患を「癰(よう)」と呼びます。そして「癰」の治療はその段階によって治し方、つまり適応する薬方が異なってきます。つまり「癰」治療の原則を熟知した上で治療を行うことが、排膿を行うための絶対条件になります。残念ながら、この「癰」治療のガイドラインを知らないまま漢方薬を運用していても、いつまで経っても効果は現れません。「排膿散及湯」や「桔梗石膏」はとても良い薬ですが、効果を発揮するためには的確に運用されなければなりません。

■まとめ 〜慢性副鼻腔炎には漢方治療が有効・しかし治し方がある〜

慢性副鼻腔炎や蓄膿症、またいつまでも治りきらない後鼻漏などでは、漢方治療をぜひ試してみるべきだと思います。手術するしかない、と言われてしまった状態であったとしても、時に驚くような効果を発揮することも少なくありません。西洋医学的治療においても、漢方薬の効能が注目されてきている昨今、西洋薬・漢方薬の良いところを両方利用するというのが、実質的に最も改善へと向かいやすい治療方法だと考えます。

ただし、漢方薬はただ飲めば良いというものでは決してありません。漢方薬には漢方に則った使い方があり、人の見立て方があります。そこを十分に理解された先生と、そうでない先生との差は、効果という形ではっきりと現れます。

副鼻腔炎や蓄膿症・後鼻漏でお悩みの方には、漢方治療をぜひともおすすめいたします。それと同時に、自分にあった漢方薬を探されるのではなく、自分にあった漢方専門の医療機関をぜひともお探しください。漢方薬には専門的な見立てと使い方とがあります。それはネットや本などには、書かれておりませんし、書かれていたとしても正確に把握することはおそらく困難です。漢方薬を試される場合は、薬ではなく自分にあった漢方専門の医療機関を探す。結局のところ、それが最も近道になるはずです。




※副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏の漢方治療をより詳しく知りたい方は、下記の解説をご参照ください。排膿作用のある漢方薬や各々の薬方解説なども載っております。
○病名別解説:「副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏

※「癰」治療の概要は以下に載っております。
○病名別解説:「おでき・皮膚化膿症