□間質性膀胱炎 ~漢方治療による具体的な対応手法~

□間質性膀胱炎
~漢方治療による具体的な対応手法~

<目次>

■漢方治療のお求めの多い疾患・間質性膀胱炎
■通常の膀胱炎とは違う・見直すべき治療方法
■間質性膀胱炎の実態
■膀胱部の血流障害・漢方治療の実際
 1.内癰(ないよう)治療を応用する
 2.駆瘀血剤(くおけつざい)を使用する
■それでも治らない間質性膀胱炎
■間質性膀胱炎治療に本質的に求められていること

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■漢方治療のお求めの多い疾患・間質性膀胱炎

間質性膀胱炎は、頻尿・尿意亢進・尿意切迫感・膀胱痛などを発生させる膀胱炎の中でも、非常に治療が難しく、治りにくい病としてお困りの方が多い疾患です。この疾患は、いわゆる単純性の膀胱炎とは一線を画する病として位置付けられています。

まず第一に、この疾患において生じている膀胱部の炎症は細菌によるものではありません。したがって急性単純性膀胱炎において効果の高い抗菌剤が全く効果を発揮しないという特徴があります。そして第二に、炎症が起こっているそもそもの原因が未だに分かっておりません。したがって現在のところ明確な治療手法がなく、不快な症状をコントロールしていくこと自体が難しいという側面を持っています。

西洋医学的に治療が難しいという病では、漢方治療に一縷の望みを託して多くの方がご来局されます。間質性膀胱炎はそのような病の一つであり、当薬局でも大変ご相談の多い病です。私自身の経験上、間質性膀胱炎治療においては「単純な膀胱炎ではない」という理解が先ず必要で、いわゆる膀胱炎に対する一般的な漢方治療をいくら行っていたとしても、芳しい効果を上げることができないという実感があります。

■通常の膀胱炎とは違う・見直すべき治療方法

膀胱炎に対する一般的な漢方治療を先ずご説明すると、膀胱炎は「淋証(りんしょう)」と呼ばれる病として治療が進められていきます。検査技術が進歩していなかった時代では、病を症状から把握することしかできませんでした。したがって「淋証」とは頻尿・排尿痛・残尿感・排尿困難などを伴う疾患として位置付けられていて、その中には膀胱炎のみならず、広く下部尿路感染症(膀胱から尿道、前立腺などの細菌感染)が包括されていたと考えられています。

その際、症状の程度や体力・食欲などの全身状態を勘案しながら薬方が選ばれていくのですが、頻用されるものには以下のような処方があります。

・猪苓湯(ちょれいとう)
・猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
・五淋散(ごりんさん)
・清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
・加味逍遥散(かみしょうようさん)

これらの処方は、膀胱炎と聞けば漢方家であればまず最初に思い浮かべるであろう薬方です。ただし先にも述べた通り、間質性膀胱炎においては、これらの一般的な薬方だけでは対応することが困難であるという実感があります。事実、これらの薬方を間質性膀胱炎に使用しても効果はあまり無く、合ったとしても単に一時的なものであり、そのうち効果が感じられなくなるということがしばしば起こります。

その理由は、間質性膀胱炎が「単純な膀胱炎ではない」からです。膀胱炎とは名付けられていますが、間質性膀胱炎にはそれ特有の病態が存在しており、そこへの対応を理解した上で薬方を選択していくことが、どうして必要になってきます。

■間質性膀胱炎の実態

間質性膀胱炎の実態は、膀胱部に起こるハンナ病変(正常の毛細血管構造を欠く特有の発赤粘膜)、または膀胱水圧拡張後の点状出血です。

通常、膀胱はとても柔らかい臓器で、膨らんだり縮んだりを滑らかに繰り返しながらお小水の貯留と排泄とを繰り返しています。そしてその柔らかさと滑らかな活動とを維持することが出来るのは、膀胱に張り巡らされている肉眼では見えない血管・毛細血管によって常に栄養が送り込まれているからです。

ハンナ病変や点状出血は、この毛細血管が傷ついている状態を指しています。つまり、膀胱に栄養を送り込んでいる毛細血管がダメージを受けていることで、膀胱自体の順調な活動が維持出来ていない状態こそが、間質性膀胱炎の実態であると言えます。

つまり間質性膀胱炎とは、「膀胱部に起こる血行障害」と捉えることが可能です。膀胱部に出血班・限局性の出血性肉芽・浅い潰瘍を生じ、進行すると瘢痕が残り粘膜下組織・筋層・漿膜に至る線維化が起こる。このように間質性膀胱炎では血行循環が持続的に障害を受けている状態を緩和・改善していかなければなりません。したがって「いかに膀胱部の血流状態を是正していくのか」ということが漢方治療においてはポイントになってきます。

■膀胱部の血流障害・漢方治療の実際

膀胱部の血行障害を是正する、そのためには、もともと漢方において提唱されていた骨盤内の充血・炎症に対する手法を応用することが基本になります。いわゆる膀胱炎に対する漢方治療というものに捉われることなく、今一歩深く間質性膀胱炎の特殊性を鑑みた場合、現在では以下のような手法が用いられています。

1.内癰(ないよう)治療を応用する

「癰(よう)」とはオデキのことを指し、内癰とは体の中に出来たオデキのことを指します。身体内の臓器にオデキが生じた場合、今でこそ抗菌剤や手術での摘出が可能になりましたが、そういった治療が発展する以前では、漢方薬によって内服治療を行っていました。特に内癰治療で有名なものが虫垂炎に対するものです。大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)をはじめとした処方群が用いられ、時に下剤をかけながら治療を行うという手法が用いられてきました。

時間を経るごとに、この手法は広く骨盤内の実質的臓器の炎症に対して用いられるようになります。膀胱や前立腺の炎症、さらには卵巣や卵管などの付属器の炎症に対しても実際に用いられ効果を発揮することがあります。これら内癰に対する処方群の薬能には、炎症を抑えつつ、うっ血や充血を改善・予防していくという効果が備わっています。膀胱部の血行障害を発生させている間質性膀胱炎においても、これらの治療を応用することで効果を発揮することがあります。

特に大黄牡丹皮湯や腸癰湯(ちょうようとう)・騰竜湯(とうりゅうとう)といった内癰治療剤に、さらに解毒剤という処方群を合わせることもあります。解毒剤は特に日本の江戸時代において頻用された手法で、今よりも衛生環境が悪かった時代、化膿性炎症に対する手法として編み出されてきました。間質性膀胱炎は時に感染を介在させる慢性膀胱炎と併存していることがあります。そのような複雑な状態において用いることの出来る非常に効果的な手法だと感じています。

2.駆瘀血剤(くおけつざい)を使用する

「瘀血(おけつ)」という病態を改善するための処方群を「駆瘀血剤」と呼びます。「瘀血」は漢方の解説において頻繁に登場する用語ですが、実のところこれが何を指しているのかということは未だに定まっておらず、かなり曖昧な概念だと言わざるを得ません。しかし確かに駆瘀血剤を用いることで改善する病態というものが存在します。私の経験では、「骨盤内臓器のうっ血・充血に起因している病態の中に駆瘀血剤の適応となる病がある」ということは正しく言えるのではないかと感じています。

間質性膀胱炎も先述のように、骨盤内臓器の血行障害として広く捉えることが可能です。そして駆瘀血剤を用いて症状が緩和されるケースが確かに存在します。主に用いられやすい方剤が、芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)です。『万病回春(まんびょうかいしゅん)』という中国・明代に書かれた名著を出典とし、それを日本において一貫堂流派がさらに改良したものがこの処方です。現在エキス顆粒剤も存在している有名処方ではありますが、この処方の本意は「身体を温めつつ骨盤内の血行を促し、うっ血・充血を去る」という点にあります。かなりザックリとした言い方ですが、この薬能を発揮させることでやはり間質性膀胱炎に対して効果を発揮してくることがあります。

ただしこの処方は単にそのまま用いるだけではあまり効果を発揮してくれません。実は使用する上でのポイントがあり、それを踏まえて処方運用を行わないと効果が発揮されにくいという特徴があります。その要領を実践するためには、この処方の骨格は一体何なのかを理解していなければなりません。21個という多種の生薬にて成り立っている処方ではありますが、その構成には意味があります。処方理解とそれに基づいた運用とが、どうしても効果発現に影響してくると言う漢方治療の特殊性が、この処方においては特に強く出てくるという印象があります。

■それでも治らない間質性膀胱炎

間質性膀胱炎の特徴を捉えた上で適応となる漢方治療、その一例をご説明してきました。

実際の臨床においても、確かにこれらの手法を駆使することで症状の消失を見るケースがあります。また長服することで症状がほぼ気にならないという状態にまで推移することがあり、そういう意味ではかなり体質的に良い変化を生じさせ得る可能性があると感じています。

しかし、現実的にはこれらの対応だけでは間に合わない、というケースが多いのです。

これらの治療をいくら駆使したとしても、症状が一向に改善されないという間質性膀胱炎があります。なぜ効果がないのか、その理由はおそらく血行障害を是正していくという治療の本筋自体の問題ではありません。問題はその手法、つまり骨盤内臓器の炎症を単に内癰と捉える、また血行障害を単に瘀血と捉えるという、一律的な治療方法の方にあります。

漢方治療全般に言えることではありますが、東洋医学ではもともと血液循環を人体に流れる大河として捉えています。いかに血流を調節し、良い流れを導くかという着想をもって、多くの漢方薬が創設されてきたという歴史があります。

つまりあらゆる漢方処方の薬能の基礎に、血流を調節するという働きがあると言っても過言ではありません。すなわち一言に血流障害といっても、その調節方法は処方の数だけ存在しています。

すなわち人体に起こる血流障害には数えきれない程の様々な形がある、ということです。つまり間質性膀胱炎においても、生じている血流障害をたった二通りの手法に区分するということには、少々無理があると言わざるを得ません。

■間質性膀胱炎治療に本質的に求められていること

では実際に有象無象の血流障害をどのように把握していけば良いのでしょうか。

実はここで需要になってくる尺度が、漢方治療の根底に通じている基礎概念です。特に「陰・陽」「三陰三陽」といった、一般の理解では非常に把握し難い概念、これらの概念がどこまで的確に把握できているのかによって、選択する薬方とその運用の仕方とに大きな差が出てきます。

漢方はもともと人体に生じる千変万化の推移を、マクロの視点で捉えることから基礎概念を作り上げています。つまり混沌とした状態からいかに規律を紐解くのか、その手法こそが東洋医学の本質的な土台になっています。間質性膀胱炎における血行障害は、ハンナ病変や点状出血などの同一性の臨床像を呈しはしますが、そこに至った経緯も、そしてその現状も、実は個人差が非常に大きいという印象があります。すなわち画一的に分類する手法をはじめから用意するのではなく、血行障害の現状をより大きな視点から捉えていくという丁寧なやり方の方が、様々な個人差に正確に対応し得るのです。

間質性膀胱炎にて生じてる膀胱部の血行障害は、単に一律的な運用を行うだけでは改善することができない、というのが臨床を通して強く実感するところです。少なくとも治療方法を2つに分けますよ、そして各々においてこのような処方を使いますよという短絡的な運用だけでは、再現性が非常に低いと思います。各患者さまの血行状態を的確に捉えた上で、それに合った薬方を運用するという手法が広く求められる。それが間質性膀胱炎における漢方治療の特徴だと思います。

先に上げた内癰治療・瘀血治療という手法に拘泥しない臨機応変な対応を行うことが重要です。そしてこれらの治療が必要な場合にはそれを選択し、それが効果を発揮しにくい状況であれば、的確に他方を選択できるという治療を目指します。このような臨機応変な治療は、間質性膀胱炎に関わらず、あらゆる難治性疾患において非常に重要な対応になってきます。難しい病であるほど、その特効薬を探したくなるものですが、現実にはそうする程に治療は失敗します。難しい病であるほど、個人差を見極めるということが非常に肝要になってきます。



■病名別解説:「膀胱炎・間質性膀胱炎