〇漢方治療の実際 ~本当に効くのか?実際に治している先生方の共通点~

○漢方治療の実際
~本当に効くのか?実際に治している先生方の共通点~

<目次>

■当然かつ真っ当な疑問「漢方薬は本当に効くのか」
■漢方薬が効く時に必要な「ある条件」
■解説書に載る分かりやすい東洋医学概念とその弱点
■様々な先生方を見てきた中で気付いたこと
■実際に治されている先生方の共通点
■「曖昧」だからこそ発揮し得る漢方薬の偉効

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■当然かつ真っ当な疑問「漢方薬は本当に効くのか」

漢方薬は本当に効くのでしょうか?
そもそも気を調えるとか、血を調えるとか、漠然とし過ぎていてよくわかりません。

このような疑問を持つ方は、おそらく多いと思います。漢方治療に何となく一歩踏み出せないという方の理由、その多くが煎じ詰めるとこの疑問に行きつくのではないでしょうか。

自律神経の失調が強く関わる疾患(自律神経失調症・パニック障害・心臓神経症・過敏性腸症候群・月経前緊張症など)や、自己免疫疾患やアレルギー性疾患など、西洋医学的にて改善が難しいような病でさえ、漢方薬により改善したという記事がネットには散見されています。ただし、たまたまだろうとか、誇張じゃないかとか、猜疑的な気持ちを持たれている方も多いと思います。

そのようなお気持ちは、ある意味当然のことだと思います。そもそも漢方の世界では、それを構成する「気」や「血」といった言葉が非常に抽象的です。気を補ったから治ったと言われても、本当かなと思って当然です。猜疑的な目を向けられることの方が、むしろ自然な気さえします。

漢方薬は本当に効くのか?
今回はこのような疑問に対して、私自身が思う、率直な回答をお示ししたいと思います。治療者、つまり漢方薬の出し手としてではなく、漢方を勉強してきた一学徒としてご説明いたします。ですので、漢方の良さも悪さも、包み隠さずお話することになると思います。

■漢方薬が効く時に必要な「ある条件」

漢方薬はその使用に際して「ある条件」が満たされている時にだけ効果を発揮します。

漢方薬は本当に効くのかという疑問に対して正確にお答えしようとすると、これが回答ということになります。

この「条件」とは、「適切に選択され、使用されている」ということです。病を見極めその個人差を見極めた上で、的確にお体に合った漢方薬を服用することが出来れば効く、ということです。逆に言えば、この見極めがなされず一律的に使用されるだけでは決して効果は表れません。

そしてこの時、漢方薬を的確に選択し使用するためには、どうしても東洋医学的な概念の理解が必要になってきます。皆さんもおそらく聞いたことのある概念、気や血、五臓や陰陽といった概念です。

ネットや本などでは、処方の解説として○○湯はこういう病でこういう人の場合に使う、と書かれています。しかしそれはどんなに説明されていた所でその薬能の一部を解説したものに過ぎません。本当の使い方というものを理解するためには、どうしても東洋医学の基礎概念を知ることが必要になってきます。つまり漢方薬を効かせるためには、これらの概念からは逃れられない。どうしてもそういう宿命を負っているのが漢方医学です。

ただし、この点こそが漢方治療の最も分かりにくい部分であることも確かです。

近年これらの小難しい概念を無視し、西洋医学的な解釈で漢方薬を運用する機会も増えてきています。しかし果たしてそれで漢方薬が本質的に備えている薬能をすべて引き出せているかというと、決してそうではないというのが現実です。どうしても分かりにくい概念を理解する必要がある。漢方って本当に効くの?という疑問が出てくる理由の核たる部分だと思います。

■解説書に載る分かりやすい東洋医学概念とその弱点

分かりにくい漢方を、なるべく分かりやすく。抽象的な概念に頼らざるを得ない漢方では、そういう試みが今まで沢山なされてきました。

ネットや本には非常に分かりやすい東洋医学の説明がたくさん載っています。気や血、陰・陽などについても、なるほどな・そういうことかと比較的簡単に理解できます。この傾向は一般の方向けの情報のみならず、漢方治療を専門的に解説するものにおいても同じです。分かりにくいというデメリットをなるべく解消しようとする試みとして、これらには一定の効果があることは確かだと思います。

しかし、これらの解説書には弱点があります。それは「漢方は曖昧である」という本質を示していないことです。

実は「曖昧」であることはデメリットであると同時にメリットでもあります。西洋医学をもってしても改善できない病や症状が、漢方薬によって改善できるという現象は、実はこの「曖昧さ」と向き合うことで初めて成し得ることが可能になるのです。

さて、今回のコラムで言いたかったことの核心に迫っていきたいと思います。「実際に治している先生方の共通点」についてです。

■様々な先生方を見てきた中で気付いたこと

漢方の理論は漠然とし過ぎていてよく分からない。漢方の道に入ったばかりの頃、私自身がそう思っていました。

教科書で解説されている気・血・水といった基礎理論は、それはそれで確かに理路整然とはしています。しかしより根本的に気とは何か、陽とは何かを突き詰めようとすると、必ず壁に突き当たります。定義が非常に曖昧だからです。

例えば気は身体の元気をつかさどる「機能」だと説明されています。元気が無いという状態は、気の不足として発現してきますよという理屈です。しかし元気がないという症状は、実際にはさまざまな状況が考えられます。体力が無い状態も元気がないと言いますし、気力が無いという状態でも元気がないと言います。

体力と気力とを一緒に論じてもいいのでしょうか。気が不足するという状態は、いったい何を根拠にそう捉えれば良いのでしょうか。はっきりいって、そのあたりの定義が非常に曖昧なのです。漢方の勉強を始めて未だ間もない頃、私はこのような曖昧さに強い疑問を抱きました。漢方を生業にしようと志していた自分にとっては、こんな曖昧な概念に身を委ねられるわけがないと思ったものです。

このような疑問は、最終的には多くの先生方とお会いしていく中で、結局のところ解決へと至ります。なんてことはありません。患者さまの病を実際に治されている先生方は、これら教科書の概念にはそれほどこだわってはいなかったのです。

■実際に治されている先生方の共通点

東洋医学の教科書に書いてあるような気・血・水や五行・五臓といった概念は、あくまで勉強のための概念である。実際の臨床ではそれほど役に立たない。そう綺麗に割り切っておられる先生方が非常に多かったのです。「もっと現実的な考え方で治療しなければ治らないよ」、これが漢方臨床の最前線に携わる多くの先生方が持つ共通認識でした。

この認識は気・血・水などの概念を否定するという考え方ではありせん。その解釈を「自分で見つけていかなければならない」という解釈です。

教科書に書いてある解説は、非常に分かりやすいという側面があります。ですから一瞬分かったような気になるのですが、実際の臨床ではそれほど意味をなしません。むしろ自分で理論を作り出すことから始めなければならないということに臨床を通して気づき、そうやって現実的な手法を一人一人の先生方が掴み取っている、というのが本当のところです。

東洋医学概論などに書いてある内容をそのまま鵜呑みにし続けるのではなく、ある段階でこれらの知識に背を向ける。そして本当の意味で気とは何か・血とは何かを臨床の中から考え直していくという作業。漢方薬をもって実際に患者さまを治されている先生方は、みな一様にこの作業を行っており、そうやって理解した本当に使える知識をもって治療に当たられているのです。

したがって気とは何か、血とは何かという言葉の定義は、おそらく先生方一人一人によって全く異なります。むしろ異なっていなくてはならないのであり、教科書に乗っているような基礎解釈だけでは実際に病を治すことは出来ず、出来たとしてもまぐれに過ぎず、決して多くの患者さまを治すようにはなれないというのが、漢方治療の真実です。

■「曖昧」だからこそ発揮し得る漢方薬の偉効

この見解は漢方を生業としている全ての漢方家に賛同してもえる意見ではないかも知れません。しかし、私が今まで経験してきたものを振り返ると、どうしてもそう思わざるを得ません。学問であると同時に、技術であるという点を大きく宿命付けられているのが漢方医学であり、良い意味でも悪い意味でも、治療者それぞれによってやっていることが全く異なっているのです。

つまり実際に病を治している先生方の共通点、それは「独自の考え方を持たれている」ということです。そしておそらく、その独自の考え方は本やネットには決して書かれてはいません。各先生方が勉強と経験とによって積み重ねてこられた結果として体得されたものであり、これを一般的に分かりやすく解説することは、おそらく困難です。

そしてこの特徴があることによって、各先生方によりさまざまな手法が生まれてきます。時に周りの漢方家でさえも驚くような考え方によって、漢方薬を運用されている先生方もいます。各先生方によるこのような手法は、それがそのまま漢方治療の可能性を広げることになります。つまり時に難治性の病さえも治し得る漢方薬の偉効は、「曖昧さ」と向き合う中で掴み取った各先生方の現実的な手法があるからこそ、実際に起こり得ることなのです。

したがって、もし漢方治療を行い症状が改善されなかったとしても、漢方治療自体を諦める必要は全くありません。漢方治療は各先生方によって全くやり方が異なります。したがって違う先生であればその点も踏まえて全く異なる治療方法を提示されるはずです。つまり、今まで受けていたものとは異なる新たな治療を受けることができるということです。これは各先生方によってやり方が異なるという、曖昧だからこそ生まれる漢方治療のメリットだと思います。



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