漢方治療の経験談「お子様の過敏性腸症候群治療」を通して

2021年08月20日

漢方坂本コラム

近年、過敏性腸症候群(IBS)治療のご相談が増えてきています。

特にお子さまのご相談です。

お腹が痛くて学校に行けない、お腹が張ってガスが出そうになるので学校に行けない、

便秘や下痢などの排便異常はもちろんのこと、さまざまなお腹の不調のために通学が難しくなっているお子さまからしばしばご相談をお受けします。

多くのケースで、病院では起立性調節障害(OD)が同時に疑われているようです。

病院を変えるたびに診断が右往左往してしまう。その分クスリの種類が増えてしまい、そのことに不安を持たれている方もいらっしゃいます。

決して西洋医学よりも優れているとは言いませんが、

このように診断が右往左往してしまう場合は特に、漢方治療を一度は考慮されるべきだと思います。

過敏性腸症候群と起立性調節障害、まったく違う病ではあります。

しかし時として、「その病根は同じ」ということが多いのです。

東洋医学の視点からみると、そう考えざるを得ないことがしばしばあります。

すべての患者さまがそうだとは言い切れませんが、少なくとも当薬局におかかりになる方の場合ではそういうことが良くあります。

だから基本的には、一つの薬で対応します。

正確に言うと、過敏性腸症候群と起立性調節障害、両者を一つの薬で解決しなければならない・・・・・・・・・・・・・・・・ケースが多いのです。

近年、このような二つの病が折り重なる病態を治療させていただいている中で、

非常に勉強になったのが、お子さま、特に成長期におけるお子さまの体がどのような状態にあるのかを理解できたことです。

かなり特殊な状態です。人の一生の中でも、最も特殊と言って良いかもしれません。

身長が伸びる時期だということが一番大きいと思います。

人はなぜが人生の極々前半にしか身長が伸びない、ということが大きいのだと思います。

人生という大きな尺度で見ると、身長は決してゆっくり伸びません。

必ず急激に伸びます。そして大きくなるのは決まって「骨」からです。

ただし、その「骨」を支える「筋肉」は、決して急には大きくなりません。

発達はしてきます。しかし骨の伸長の方がはるかに早く進みます。

すると相対的に骨を支える「筋肉」が薄くなります。

筋肉が薄くなるということは、それだけびくびくと弱く・緊張しやすくなるということです。

そしてそれは腕や足などの骨格筋だけではありません。

当然、内臓もそう。消化管平滑筋も、非常に薄く・緊張しやすくなってくるはずです。

つまり、成長期のお子さまは、成長期ということだけで消化管が緊張しやすくなります。

特に「昔から食欲にムラがある」とか、「お腹を冷やして下痢をしやすい」とか、「小さい時からずっと便秘がち」とか。

そういう消化管に小さな問題を抱えていた子では、特にこの緊張が強くなります。

急激に体が大きくなる成長期だからこそ、筋肉が緊張し、悲鳴を上げやすくなってくるのです。

お子さまの過敏性腸症候群を改善していくためには、この点を十分に理解しながら治療する必要があります。

そして私の経験では、起立性調節障害も、この点が病態形成の根幹に関わってきていると感じます。

ポイントは筋肉の形成と、その緊張緩和です。

これはおそらく、漢方の先哲たちも理解していたはずです。

一本棒とか腹直筋の緊張などと表現していた腹証(お腹を診ることで分かる病証)は、これを示唆しています。

さて、ここからは少しだけ具体的なお話を。

「筋肉の緊張」と言われて、それを緩和させる薬をあげろと言われれば、

真っ先にあがるものは、芍薬しゃくやく甘草かんぞうの方意だと思います。

ただし、芍薬・甘草の方意だけにとらわれていれば、多くの場合で失敗します。

小建中湯しょうけんちゅうとう桂枝加芍薬湯けいしかしゃくやくとう柴胡桂枝湯さいこけいしとう四逆散しぎゃくさん、このあたりの芍薬甘草剤を使って治らなければ、もう次の手がなくなります。

「筋肉の緊張」とは、それほど短絡的な理解では解決できないものです。

それを、私は臨床を通して身をもって体験してきました。

それだけ失敗も多かったと思います。しかし、その失敗があって初めて理解できたことでもあります。

要は「筋肉の緊張」という現象を、東洋医学的にどう解釈するか。

多分この点が、私が今までさんざん先生方に言われてきた、コツ、なのだと思います。



■病名別解説:「過敏性腸症候群
■病名別解説:「起立性調節障害

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