漢方治療の経験談「血管運動性鼻炎治療」を通して

2024年07月31日

漢方坂本コラム

当たり前のことですが、

漢方は全能ではありません。

だから東洋医学ではなく、西洋医学で治療するべき病はたくさんあります。

しかし、逆も少なからずあります。

西洋薬をいくら飲んでも治らなかった病が、漢方薬で嘘のように良くなる、

そういう経験をするたびに、漢方って凄いんだなと、治療者である私自身も驚きます。

そしてそういう経験をすることの多い病の一つが、血管運動性鼻炎です。

たかが鼻炎と、侮れない病。

人によってはくしゃみと鼻水がずっと続いて何もできなくなる、

生活に支障が出てしまうほどに、激しい症状を呈する病です。

非アレルギー性鼻炎とも呼ばれるこの病は、鼻粘膜の血管の充血によって起こります。

花粉やハウスダストなど、外からのアレルゲンによらずに起こるため、抗ヒスタミン薬が充分に効いてくれないケースが多いものです。

そうなると西洋医学では太刀打ちすることが難しい。患者さまによっては完治は難しい、付き合っていくしかないと言われてしまうこともあるようです。

当薬局にもそんな方がたくさんお越しになりますが、私の感覚としては、漢方治療であれば普通に太刀打ちすることができます。

むしろ完治できないという感覚はあまりなく、実際に改善していく方のほうが多いという印象さえあります。

それには理由があります。漢方治療では、そもそもアレルギー性鼻炎だろうが血管運動性鼻炎だろうが、治療方針は全く変わりません。

なぜならば結局のところ、両者には全く同じ現象が起こっているからです。

鼻腔の血行障害。そこからくる鼻粘膜の充血。

これはアレルギー性鼻炎だろうが、血管運動性鼻炎だろうが、両者ともに等しく介在しています。

そして西洋薬ではこの血行障害に効果を及ぼすことができませんが、東洋医学ではそれができます。

むしろ、得意分野だといっても過言ではありません。

だから西洋医学では少々難しい病と認識されやすい血管運動性鼻炎であっても、漢方ではそれほど困りません。

アレルギー性鼻炎で行われている治療と、基本的には同じだからです。

ただし、もちろんアレルギー性鼻炎とは違う点もあります。

血管運動性鼻炎はアレルギー性鼻炎に比べて、病態としての幅がとても広いのです。

例えばアレルギー性鼻炎であれば、小青竜湯とか麻黄附子細辛湯とか、ある程度効果的な薬を病名から結び付けることができます。

しかし血管運動性鼻炎ではそれがでません。

血流障害の原因と状況は人によって全く違うからです。

だから治療の難易度でいえば、漢方治療においても血管運動性鼻炎の方が難しいと思います。

病態の範囲が広いということは、それだけたくさんの可能性の中から漢方薬を紐解かなければならないということです。

ただし裏を返せば、それだけ血管運動性鼻炎を改善し得る薬が、漢方では用意されているということでもあります。

例えば当帰四逆加呉茱萸茯苓生姜湯で血管運動性鼻炎が治る人がいます。一方で、防風通聖散で著効を奏する人もいます。

これらは決して血管運動性鼻炎の特効薬ではなく、かつ両者は全く違う薬です。

つまり、それだけ血管運動性鼻炎の病態は千差万別だということです。

すなわち人の血流状態は個人差が大変大きく、それを改善していく手法も一人一人異なるため、

患者さま毎にその都度、紐解いていかなければなりません。

たまに、○○を治せるようになったら一人前、という表現が使われますが、

一人前かどうかは置いといて、血管運動性鼻炎が治せるようになったらそこそこの腕前だと思います。

数ある鼻炎の中でも、血管運動性鼻炎は鼻炎の本質を突く治療が求められます。

日本漢方や中医学という基礎の上に、どれだけ経方に親しんでいるのか。

その辺りがこの病を再現性をもって治せるようになるためのキモであるような気がします。



■病名別解説:「アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら

※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。