7月。
そろそろ夏の盛りに差し掛かろうかという暑い時期に、
長年悩まれている蕁麻疹をどうしても治したいということで、
県外から患者さまがご来局された。
33歳、男性。
もういつ始まったのか、正確には覚えていない。
物心がついた頃には蕁麻疹は出ていて、
小学校低学年の時にはすでに皮膚科に通っていた。
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抗ヒスタミン薬を昔から飲んでいる。
それで痒みは楽にはなる。しかし完治することはない。
昔に比べたら良くなっている実感はあるものの、
今でも寒冷刺激を受ければ、必ず蕁麻疹が起こる。
例えば夏、汗をかいた時。
その後クーラーで冷えたりすると必ず痒くなる。
またスーパーの生鮮食品売り場で冷たい空気を浴びた時や、雨に濡れた時。
当然冬も、冷たい風に当たれば出てくる。
ただしこの膨疹は、体が温まればすぐに引いてくれる。
風呂に入ったり、暖房に当たれば、蕁麻疹は必ず消えてなくなる。
病院では抗ヒスタミン薬を飲み続けながら、様子を見ていこうと言われているが、
一生このままかと思うと、気分がゆううつになった。
だましだまし付き合ってきた蕁麻疹に、ちゃんと向き合おうと決めた矢先、
人から当HPの記事を紹介されて、山梨まで行ってみようと決めた。
持病とちゃんと向き合おうと決められたお気持ち、大変立派である。
チャレンジする気持ちで県外から足を運んでいただけた。
ならばこちらも、その想いに応える気持ちで挑まなければならない。
詳しく状況を伺った。
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色白で中肉中背だが、ややぽっちゃりとした印象。
昔はもっと太っていて、ここ一年で5キロは落とした。
月に数度、夜勤のある仕事をしていて、
昔は暴食しがちだった。しかし今は食事に気を使っているという。
蕁麻疹は寒冷刺激によって必ず起こる。
ただし写真で確認するとその膨疹は淡いピンク色で、そこまで赤くはない。
掻くと広がるため掻かないようにしている。それが出来る程度の痒みではある。
大便はやや便秘がちだが毎日あり、
小水は比較的多く、日に10回程度。
胃に申し分無く、食欲もある。
ただし言われてみれば、疲れやすい自覚があり、
特に夜勤の後はさすがにしんどい。そして疲れた日は寝汗をかくという。
そもそも普段から汗っかきである。相談している最中も、汗で額が湿っていた。
昔に比べれば良くなっているとはいえ、
毎日出ない日はない、という状態だった。
ひどかった昔というのは、いつのことかと尋ねた。
去年まではひどかった。ここ一年で、良くなってきていると。
なるほど。
おおよその状況は確認できた。
治療方針はこの時点である程度見当がついたが、
あとはそれをどう具体的に行うのか、である。
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今回の蕁麻疹は、どうすれば治るのかがはっきりしている。
温まれば治る。
蕁麻疹は体が温まれば即座に消える。疑いようのない事実として、まずはそれがある。
そして蕁麻疹の色。決して強い赤味ではない、淡い桜色の膨疹。
そこから考えても矛盾がない。則ち漢方をもって体を温め、血流を促すことが出来れば、
この蕁麻疹は消える。この想定が、まずは今回の治療の柱になる。
あとはどうやって体を温めるのか。
一言で温めるといっても、温薬を用いれば皆な温まるかというと、そんなに簡単ではない。
漢方ではその人に必要な、その人に響く温め方を選択しなければ温まることはない。
そして今回のケースは、熱薬でどんどん温めるべき状態にはどうしても思えなかった。
むしろややブレーキを踏みながら調節するような温め方。
疲れ方にそういう特徴がある。丁度よい刺激でほんのりと温めてあげることが、必要な状態に思えた。
さらに患者さまの皮膚。白く柔らかくやや湿り気を帯びたような皮膚。
蕁麻疹は水の病でもある。水気が張り出しやすいような皮膚、という印象である。
そういう時に想定するべき薬がある。
まずは根治を目指し、手始めの一手。
今後、変更する可能性をいくつか想定しながら。
蕁麻疹治療の初手は丁寧に入る。その定石を守りつつ、
私は20日分の薬を出した。
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血流を促すのに丁度よい塩梅がどこなのか、
それを探る初手であったが、思いのほか的確に響いた。
二回目のご来局時、対面して早々に、
患者さま曰く、効果を感じる、と。
まず蕁麻疹は出るが、今までよりもさらに引きやすくなった。
そして皮膚が若干暖かくなっている感覚があるという。
今のところ膨疹の頻度も減り、
そういえば今日は皮膚が気にならなかったな、という日が明らかに増えていた。
漢方を飲んだ時、体が一時的に温まるかと聞くと、
飲んですぐ温まるということはない。しかしそういえば冷えにくいという感覚はあると。
おそらく、このあたりが良い塩梅なのだろう。初手で上手くいったのは僥倖であった。
患者さまが養生をきちんと守られていたのも大きい。
このまま同処方を続けてもらうよう説明する。
患者さまの真面目な人柄が頼もしかった。
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夏の気配を完全に感じなくなった、10月の下旬。
患者さまはハイキングに行かれた。かなり標高が高く冷える場所だったようである。
それでも蕁麻疹が起きなかった。望外の喜びだったと。
このままいけば、今年は今まで我慢していたウインタースポーツにも行けるかもしれない。
是非チャレンジしてみらたどうかと、お勧めすることが出来た。
その後、蕁麻疹は波を打ちつつ終息に向かい、
出ても「微かに」という程度のまま、同処方の服用を続けられた。
そしてちょうど一年経った頃、ほとんど出なくなったことを確認。
あとは養生だけで十分とし、漢方治療を終了した。
健康を招くのは、
前向きな姿勢と、養生を続ける真面目さ。
患者さまのチャレンジを近くで拝見しながら、
しみじみと再確認した症例である。
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【漢方坂本/坂本壮一郎|note】
今回の症例の【解説編】をnoteに記載しております。
使用した漢方薬、また病態の見立てや処方にたどり着くまでの考え方などを解説しています。

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■:病名別解説「蕁麻疹・寒冷蕁麻疹」
〇参考コラム:
□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・前編~
□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・後編~

漢方坂本/坂本壮一郎|note