漢方治療の経験談「パニック障害治療」を通して 2

2025年09月25日

漢方坂本コラム

当薬局のように漢方相談だけを行っている専門機関にお越しになられる方は、

どこに行っても治らないという、本当にお困りの方が自然と集まってこられます。

その中でパニック障害は、かなりの数の問い合わせを頂く病です。

治療を行うも治らない、一度治っても再発してしまった、なるべく向精神薬は飲みたくないなど、

治りにくく、しつこく、かつ常に不安を伴う病。

だからこそ本当にお困りの方が多く、

実際にご相談中の患者さまからそのお気持ちがひしひしと伝わってきます。

それに何とかお応えしようと、今までこの病の治療方法を必死に紐解いてきました。

パニック障害は私にとって、そういう努力を積み重ね続けてきた病でもあります。

その努力の甲斐あってか、

私にとってパニック障害は、決して不治の病という印象ではありません。

もちろん程度にもよります。難しい場合もあります。ただし正しい治療によって、比較的回復へと向かっていくことのできる病です。

そう感じられるようになったのは、この病の治療を通して私が、様々なことを勉強させてもらったからです。

そしてそれは単に、パニック障害の治し方が分かったということだけではなく、

もう少し広く、漢方治療とはこういうものなんだな、ということに気付かせてもらえたからです。

例えばこの病の治療を通して、私はいわゆる「気」という概念からの脱却できました。

漢方では心療内科的な病に対して、すぐに「気」という概念を使いたがります。

この悪癖から脱却できたことが、まずはとても大きなことでした。

「気」という概念を無視しろと言っているわけではありません。

そうではなく「気」を臨床で使える概念にまで昇華させずに、安易に使い過ぎているということです。

不安感や焦燥感、イライラなどがあればすぐに気の巡りが悪いと判断する、

また動悸や息苦しさがあれば、すぐに気の上衝や奔豚気と判断する。

これは安易です。安易という理由は、そうやって薬方を選んでも多くのケースで効かないからです。

より再現性をもって、より確率良く的確に治療していくためには、

「気」という概念を曖昧なまま使っていてはダメだという当然の事実を理解する必要があります。

さらに患者さまを観た時、

私はその患者さまに合う漢方薬を探そうとはしなくなりました。

これが大変大きく自分を変えることになりました。

漢方の基礎学習を行うと、どうしてもその人に合った漢方薬を探そうとしてしまいます。そう教えられるからです。

しかし、患者さまから探さなければいけないのは「処方」ではりません。

あくまで患者さまを治していくための「治療方針」です。

その「治療方針」が先にあるからこそ、薬方や養生を通して病は初めて治癒へと向かっていきます。

漢方治療とは、単に自分に合った漢方薬が見つかれば治るよ、という単純なことではないのです。

だから私はご来局された患者さまが、今までどんなに沢山の種類の漢方薬を服用されていたとしても驚かなくなりました。

こんなに沢山の種類を飲んでいて効かないなら、漢方治療は難しいんじゃないか、とは全く思いません。

むしろこれだけ沢山の種類を使っていたということ自体が、今までの治療に「治療方針」が無かったということの証左です。

故に、まずはちゃんと治療方針を組み立てる。

それさえできれば、今までどんなに漢方薬を飲んで治らなかったとしても解決する可能性があります。

私が見てきた限り、

漢方治療に精通され、かつ高いレベルにまで到達された先生であれば、

必ずこの治療方針を立てることの大切さを理解されています。

むしろそれが出来るかどうかが、明確な腕の違いだと言っても過言ではありません。

そしてこの治療方針を組み立てるためには、当然漢方への深い理解と造詣とが必要になります。

その漢方への深い理解とは具体的に何か。

それは「東洋医学的に人体を理解している」ということです。

漢方の基礎学習からではなく、あくまで臨床経験を根拠として、

人体を東洋医学的に理解している先生は、実はそれほど多くはありません。

なぜならば、臨床を通して先ず学べるものは、薬の使い方。

そこから病理を理解し、さらに人体の生理を理解していくことは、理解の深さが全く違うのです。

臨床ではまず症状を緩和させることが求められます。

故に漢方薬を使っていくことで、この薬はこういう症状に効くぞ、ということが徐々に分かってきます。

しかし、それだけれは十分に治せるようにはなりません。

なぜならば、薬の使い方だけ知っていたとしても、

場渡り的な治療しかできないから。

もし薬を使って効かなければ、別の薬を使う。それを続けていく治療。

今まで使ったその感触だけで、薬をどんどん変更していく治療になってしまう。

それは治療方針の無い治療と同じです。患者さまに合った薬を探そうとしているのと全く同じ。

そうではなく、的確に、有効性の高い治療を進めていくためには、

今まで薬を使った経験、病態を紐解いた経験をもとに、

人とはこういうものなんだなという、人間の「生理」にまで考えを及ぼさなければなりません。

なるほど人はこの活動をもって息を吸っているんだなとか、

なるほど人はここの働きによって気持ちを安定させているんだなとか、

そういう人の生理を東洋医学的に把握できていることで初めて、

治療に軸ができる。治療方針を組み立てていくことができます。

先に申し上げた通り、そこの理解まで造詣を深めている先生はそれほど多くはありません。

しかし必ずいらっしゃるし、そういう先生こそが治療得手の先生です。

今後、日進月歩の成長を見せる西洋医学を影から支える医学として、

東洋医学を未来に残していくためには、自律神経に対して効果を示せるかどうかにかかっていると私は思っています。

そしておそらくそれは可能です。漢方はその独特な考え方をもって自律神経の乱れに対応できます。

それがちゃんと証明できる時代が来るためには、

おそらく多くの先生方が、人体とはこういうものだという深い造詣を見出せるかどうかにかかっているのではないかと感じています。



■病名別解説:「パニック障害・不安障害

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。