□アトピー性皮膚炎
~夏に悪化するアトピー性皮膚炎について~
<目次>
・夏にアトピー性皮膚炎を悪化させないための準備
・漢方薬による対応
■五苓散
■藿香正気散
■清暑益気湯
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アトピー性皮膚炎にはそれ特有の皮膚症状があるものの、決して皆さんが同じではありません。
滲出液の多少や皮膚乾燥の程度、また生じている部位にも大きな差があります。
さらに季節による症状変化にも差があります。例えば冬に悪化する傾向のある人もいれば、夏に悪化するタイプの人もいます。
そして昨今、私が特に問題だと感じているのは、このうち夏に悪化するタイプのアトピー性皮膚炎です。
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というのもここ数年、夏があまりにも暑く、長くなってきたため、今まで平気だった方でさえアトピー性皮膚炎を悪化させるようになってしまっているからです。
しかもその悪化の程度が酷い。痒みが若干強くなるという程度ではなく、明らかに肌の見た目が赤黒く変化し、激しい痒みを起こすような明確な悪化を起こす方が増えています。
夜間眠れないほどの暑さや、激しい低気圧と湿気。それによって体に熱がこもり、皮膚が焼かれてアトピー性皮膚炎を悪化させてしまう人が後を絶ちません。
地球温暖化の影響を受けて、今後夏の不快さが軽減していくことはおそらくないでしょう。だからこそ漢方治療においてもそこにどう対応していくのか、その具体的な策が早急に求められていると実感するところです。
そこで今回は、この夏に悪化するアトピー性皮膚炎に対して、現状どのような対応が功を奏するのか、その具体的な方法について解説していきます。
この2・3年で私が経験した内容を基にしています。故に今後、内容が変化および追加されることは当然あり得ます。
ただし今回の内容はどちらにしても基本に属することですので是非知っておいて欲しいと思います。これから深まる夏に向かって油断することなく対応してもらえたら幸いです。
夏にアトピー性皮膚炎を悪化させないための準備
ここ近年夏に激しく悪化する方の多くは、その特徴として「夏バテ」を併発しているパターンです。
「夏バテ」というのは正式な病名ではありませんが、夏に起こす特有の体調不良で、例えば以下のような症状を呈してくる状態を指しています。
〇食欲がなくなる。肉や油ものは匂いを嗅ぐだけで嫌、見るだけで嫌になる。ただし水分や果物は好んで取る。
〇体がだるく疲れやすくなる。特に暑い所に少しでも行くと直ちにだるくなり、比較的涼しい所でじっとしていると楽、という倦怠感が起こる。
〇体の芯が熱っぽくなる(身熱)。少しでも暑気(湿気や熱)に当たると体にこもった熱が強くなり苦しくなる。
以上のように、「独特の食欲不振と倦怠感」、また「身熱」が夏バテの特徴です。夏場にこの状態に陥ってしまうと、皮膚炎も同時に悪化し、かつ通常のアトピー性皮膚炎治療が効きにくくなり、いつまでも治りにくくなります。
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夏バテはとにかく予防することが肝要です。
そして夏バテの原因は総じて「胃腸の疲れ」に起因しています。
食事の不摂生・睡眠不足・過労などによって胃腸が疲れてくることで、全身に何とも言えないだるさを呈してきます。
また少し暑い所に行っただけで体に熱がこもって微熱を感じると同時に極端にだるくなるという特徴的な疲労感を生じますが、これもすなわち胃腸の疲れに起因しています。
良くあるのが水分ばかりを摂ることでお腹いっぱいになってしまい、ちゃんとした食事を摂らなくなってしまう方に頻発してきます。
また夏に胃腸が疲れてしまう方は、その要因が夏ではなくすでに梅雨時期から始まっていることが多いものです。
したがって梅雨時期の過ごし方も非常に大切です。
夏の悪化に対して、私は薬で対応していくことは最上の策ではないと思っています。
生活習慣の中で予防できるであればそれが最も上策です。
夏場に極端に悪化する場合、アトピー性皮膚炎の治療と同時に、もしくはそれを一端止めて夏バテの治療を行わざるを得ません。アトピー性皮膚炎の治療としては後手に回ることになるので、夏の悪化はできるだけ養生によって予防していくべきだと感じている。
夏バテのメカニズムとその養生については今までのコラムで多く解説してきたところです。
以下がそのダイジェストになりますので、是非お読みいただくことで夏バテ予防を実践してください。
◇養生の実際・夏 ~夏の健康維持・知っておくべき養生2選~
◇養生の実際・夏バテ対策編1 ~はじめに~
◇養生の実際・夏バテ対策編2 ~なぜ夏にバテるのか?胃腸の温存と水分摂取~
◇養生の実際・夏バテ対策編3 ~夏バテは胃腸に始まり胃腸に帰結する~
◇養生の実際・夏バテ対策編4 ~寝ることの意味・睡眠と夏バテ~
漢方薬による対応
夏にバテを生じ、それと共にアトピー性皮膚炎を強力に悪化させてしまった場合、上述したように通常行っているアトピー性皮膚炎の漢方治療と同時に夏バテの治療を行うか、または夏バテの治療に切り替えなければなりません。
その場合、治療としては確かに後手に回りますが、もし夏バテ治療が的確にハマり、だるさや食欲などの身体症状を回復させることができれば、自ずとアトピー性皮膚炎も改善してくる傾向があります。
逆に夏バテを起こしているのであれば、いくらそのまま現状のアトピー性皮膚炎治療を続けていたとしても悪化を止めることは出来ません。つまり皮膚を治すためには夏バテの回復が必須となります。夏バテがアトピー性皮膚炎に及ぼす影響は大変大きいと言わざるを得ません。
則ち夏に悪化するアトピー性皮膚炎は夏バテ治療を的確に行えるかどうかが決め手となります。処方をいくつか挙げておきます。ただしこの辺りの治療は決して自己判断せず、ちゃんと漢方専門の医療機関にかかった上で行うことをお勧めします。
■五苓散(ごれいさん)
身体の水分代謝を改善すると銘打たれている五苓散は、単に水毒を除く(水を抜く)薬ではなく、軽度の脱水を予防・改善するための薬でもあります。
故に、五苓散は夏場に夏バテ予防の薬として使えます。特に、夏に暑くなり汗をかいて咽が渇き水分摂取が止まらなくなる方。先で述べたように夏場に水を飲み過ぎると胃腸を傷つけます。水分を摂取しつつ同時に五苓散を飲んでおくと、夏バテが予防できると同時に夏特有の体のだるさが軽くてすむという方がいます。
ただしこの薬をアトピー性皮膚炎の方に使う場合、時に桂枝が皮膚にさわり悪化することがあるので注意が必要です。服用して逆に皮膚が痒くなるという方は控えておいた方が無難です。
■藿香正気散(かっこうしょうきさん)
梅雨に体調を悪くさせやすい方は、そのまま夏バテに移行していきやすいものです。
しかも昨今の夏は長いため、梅雨から夏にかけて、およそ半年もの間体調不良が続いてしまうことになります。したがって何としても梅雨の体調は維持したいところです。
梅雨に体調を悪化させる要因に、湿気による胃腸活動の乱れと全身のだるさ、さらに朝起きた時の咽痛から始まる夏風邪があります。
咽の痛みが取れず、動くと体の中に熱がこもって非常にだるく、うっすらと汗をかいて止まず、腹が張り軟便ですっきり出ない。そしてそれがいつまでも治らず、ずっと続いてしまう。梅雨場に胃腸を崩したことによりいつまでも風邪が治らないという状態です。
この状態を解除するのが藿香正気散で、上手に使うと即効性をもって良く効きます。ただし効いた後もしばらくはこの薬を続けていた方が良いでしょう。
本方の骨格は胃腸薬です。しかも大変優しくアトピー性皮膚炎を悪化させることもあまり無ありません。故に夏バテに向かわないよう、本方を長服してとにかく胃腸を守り続けることをお勧めします。
■清暑益気湯(せいしょえっきとう)
名前の通り、夏バテの薬として作られた処方です。
清暑益気湯には二つあります。一つは『医学六要』に載る処方、そしてもう一つは『内外傷弁ま惑論』に載る処方です。(他にも王孟英が温病学に基づき創方したもののあります。)
現在多く流通しているのは『医学六要』の方で、136という番号で保険の適応にもなっています。本方はとにかく夏バテの真正面の状態に著効します。
つまり食欲なく、水分や果物など咽越しの良いものは食べられるが肉や油ものなど匂いを嗅ぐのも嫌がり、体がだるく特にクーラーに当たっている分には良いが少しでも暑い場所に行くと体が脱力して辛く、さらに体の芯が熱っぽくて冷たいものを好むが、体温計で測っても熱があるわけではないという状態。じっとりと汗をかきなかなか引かないという方もいます。
アトピー性皮膚炎の方が夏場にこの状態になってしまうと皮膚は極端に悪化してきます。皮膚表面がガサガサになって痒みが強く、患部が上半身を中心にからだ全体へと広がってきます。
その際、清暑益気湯をもって夏バテを解除することで皮膚が落ちつく場合が多いものです。そもそもアトピー性皮膚炎の多くは温病に属します。この処方はよくよく見ると温病の系譜を感じさせる側面があり、その意味でもアトピー性皮膚炎に効いても不思議ではないと感じています。
ただし清暑益気湯には問題があります。このような夏バテに清暑益気湯を使ってもそれほど効かない、あまり効果が出ないのです。
それには理由があります。この処方は効かせる際にあることを行わないと効いてくれないからです。故にやはりこの処方を単に買って飲むということは止めておいた方が良いでしょう。必ず漢方専門の医療機関におかかりになってください。
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■病名別解説:「アトピー性皮膚炎」
※清暑益気湯についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。


漢方坂本/坂本壮一郎|note