【漢方処方解説】小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

2025年02月27日

漢方坂本コラム

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

<目次>

小青竜湯が効く鼻炎

小青竜湯と「水」

「心下有水気」とは

小青竜湯の難しさ

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花粉症治療薬と言えば、小青竜湯。

春になると手放せないという方もいらっしゃると思います。当薬局でも花粉シーズンになると、この薬をお求めに来局される方が毎年何人かいらっしゃいます。

鼻炎治療薬として有名な処方ではありますが、決して鼻炎の特効薬というわけではありません。風邪に使ったり気管支喘息に使ったりと、比較的使われる場の多い漢方薬です。

名医・中島随証先生は、癌の患者さんに本方を使い改善せしめたと言います。ここまで来ると常人では手の届かない領域ですが、確かに知れば知るほど奥の深い処方です。アレルギー性鼻炎に使われているだけでは勿体ないと思います。

そこで今回はこの処方を少しばかり深堀していきたいと思います。鼻炎以外の治療に用いる場合でも運用の基本となる内容ですので、使用の際は是非参考にして頂ければ幸いです。

小青竜湯が効く鼻炎

まずは小青竜湯が効くアレルギー性鼻炎について解説します。血管運動性鼻炎でも構いません。本やネットでも解説されているところではありますが、小青竜湯が効く鼻炎には分かりやすい特徴があります

まず鼻水やくしゃみの出方としては激しめの症状に効きます。朝起きたらくしゃみが止まらない、抗アレルギー薬があまり効かないというぐらいに鼻炎症状が明らかな方に適応しやすい印象があります。

また鼻汁の性質は水のようにぽたぽたと落ちるタイプです。粘稠でべとつき鼻に詰まるというよりは、水道の蛇口を捻ったように鼻から水がザーッと落ちる状態、ティッシュを詰めてないと床にたれるというくらいに流れ出る鼻水です。

また小青竜湯が効くタイプの方は、鼻炎と同時に顔に浮腫みが起きていることが多いものです。顔全体、特に目の周りに浮腫みが出やすい。アレルギー性結膜炎を併発して目がかゆくて瞼が腫れているという状態もその範疇に入ります。

昔ある先生が小青竜湯が効くタイプの花粉症は見てすぐに分かるとおっしゃっていましたが、確かにそうだと思います。顔が浮腫んで腫れ、ティッシュを鼻に詰めて苦しそうにしていたら、小青竜湯を第一選択薬として考えても良いと思います。

以上が小青竜湯を花粉症に使う場合の正証ですが、本方は生じている花粉症の症状だけではなく、ある体質的傾向が運用の決め手になりやすい処方です。小青竜湯が効きやすい体質というものがあり、そこを見極めることでさらに的確に効かせることが出来るようになります。

そこで次項からは本方が本来どのような薬なのか、その構成の意図を解説していきたいと思います。

小青竜湯と「水」

まず結論から申し上げると、小青竜湯は身体の「水」に働きかける薬です。

水とは東洋医学で言うところの概念としての「水」ではなく、ここでは体にある実際の「水(血漿成分)」を指して言っています。

具体的に言うと「腫れ」です。身体内にある水が外へと張り出そうとしている状態です。

小青竜湯は本来、この「腫れ」に対する治療薬として開発されました。

「腫れ」は様々な理由で起こります。打撲でも起こりますし、物理的な圧迫によっても起こります。

その「腫れ」の中で、古人は麻黄と甘草という生薬で取れる腫れがあることを知ります。主に今で言うところの炎症性浮腫、つまり感染症やアレルギーによっておこる皮膚や気管支、時に関節に起こる腫れがそれに当たります。

この麻黄と甘草の組み合わせで作られた処方が「甘草麻黄湯」です。皮膚や関節・気管支などに起こる腫れには越婢湯類や麻杏甘石湯が使われますが、これらは全てこの甘草麻黄湯を改良したものです。

そして小青竜湯もこの甘草麻黄湯を中心として作られています。すなわち小青竜湯は「腫れ」の改善薬としての効果がその薬能の基盤になっています

例えば『金匱要略』では「溢飲(いついん)」と呼ばれる腫れ・浮腫み(おそらく末梢の微小循環障害や静脈血の潅流の低下によって四肢に起こった浮腫)に小青竜湯を使うことが指示されています。先に顔が浮腫んでいるアレルギー性鼻炎に効きやすいと説明したのも、小青竜湯に腫れを取る効果があるためです。

そして小青竜湯は特に東洋医学で言うところの「肺」つまり上気道から下気道までの腫れに良く使います。具体的には鼻炎から気管支炎・気管支喘息など、気道に起こる炎症性浮腫にしばしば使われます。

つまり小青竜湯は決して鼻炎に使うだけの薬ではなく、上気道・下気道とより広く起こる「腫れ・浮腫み」に効果を発揮する薬です。場合によっては胸膜に起こる浮腫にも効果を及ぼす可能性があります。

胸部から上の腫れ、すなわち「水の溢れ」に使うというのが小青竜湯の本質です。ただし先に述べた越婢湯類や麻杏甘石湯も同じです。葛根湯でさえ甘草麻黄湯を配しているため腫れに使う薬です。

しかし小青竜湯はこれらの薬とは明らかに違います。その違いこそが本方が適用しやすい体質を紐解くカギになります。

ポイントはなぜ鼻水が詰まらず、漏れるのか。小青竜湯の効能をさらに深堀りしていきましょう。

「心下有水気」とは

甘草麻黄湯を基本とする薬のうち、小青竜湯は「表寒証」という冷えを改善する薬です。確かに冷たい風や急に気温が下がった時など、冷えの刺激によって誘発される鼻炎にも効果を発揮します。

この冷えを温める薬能こそが、他の薬との大きな違いとしてしばしば解説されています。しかしより深い所から見るとこの薬は単に冷えを取る薬ではありません。

小青竜湯とはそもそも、胃腸の弱い人に使う薬です。上気道の炎症性浮腫を繰り返しやすい人の中には胃腸の弱い人がいて、そういう人のために作られたの処方が小青竜湯です。

ここで言う胃腸の弱さとは胃腸機能(消化管平滑筋活動)の弱さ・不安定さを指しています。普段からお腹をお壊しやすい傾向があるとか、ストレスや疲労で食欲にムラが出やすいとか。日常的に良く見られるような胃腸の弱さではありますが、このような胃腸の弱さを持つ人は胸中に浮腫を生じやすい・水が溜まりやすいという現象があることを古人は発見しました。

古人は飲んだ水が体に入り巡る際、胃腸がその要所(動力)になると考えました。そして胃腸活動に弱さがある人では飲んだ水の巡りが悪くなり、体のどこかに溜まってしまうと考えました。そしてその場所の一つが胸(肺)であり、そのために起こるくしゃみや鼻水、喘息があると考えた。そこで胃腸に配慮することで取れる肺の水があることに気が付き、それを薬にした。その一つが小青竜湯です。

この胃腸に弱さを持つ人が胸中に水を溜める病態を「心下有水気(心下に水気有り)」と言います。時に胃腸の弱い人ではみぞおち辺りを押すとぽちゃぽちゃと音を出すこと(心下振水音)があり、それを心下有水気と解説している場合もありますが私は違うと思います。

心下有水気とは「胃腸が弱い人は胸中(肺)に炎症性浮腫を生じやすく、かつ一度起こると治りにくいという病態」を指している言葉だと私は捉えています。そして小青竜湯の適応病態はまさにこの「心下有水気」であり、その実は「飲んだ水を吸収する力の弱さがみぞおちに有る」ということそしてそのせいで胸中に水が溢れ出てしまう病態にこそ小青竜湯を使うという意味です。

したがって小青竜湯は、越婢湯や麻杏甘石湯・麻黄湯などと比べて「胃腸が弱そうだな」という人に使うことがそのポイントになります。胃腸が冷えているとか肺が冷えているとかは根拠にはなりますが絶対ではありません。もっと簡単に、胃腸が弱そうだという点を目標にして使って構いません。

ただし漢方では胃腸の弱さが単に消化吸収の弱さや乱れだけに表れるとは考えていません。もっとカラダ全体に波及し得る弱さだと解釈しています。例えばもともと体が細く肉が付きにくいとか、逆にぽっちゃり傾向で運動不足かつぜい肉が多くて筋肉が少ないとか、そういう体の弱さ疲れやすさがある点も目標になります。総じて体の弱そうな人が激しいアレルギー性鼻炎や気管支喘息を起こしている場合では、越婢加朮湯や麻杏甘石湯ではなく小青竜湯の方が良いかな、という具合に運用を見極めていくことが基本になります。

ただしその上で、小青竜湯には一点気を付けなければいけない問題があります。実はこの薬は決して使いやすい薬ではなく、運用上よくよく考えなければならない難しさがあります。

小青竜湯の難しさ

小青竜湯の難しさは、ひとえに麻黄剤であることに尽きます。

小青竜湯は先で話したように、胃腸の弱さや身体の弱さを持つ人に適応します。しかし同時に麻黄剤です。麻黄は体の弱い人に使うと逆に体調を悪化させてしまうことがあります。これを発陽と言います。

特に桂皮と組み合わさると麻黄の力がさらに引き出されてしまうため注意が必要です。すなわち小青竜湯は体の弱い人に使う傾向がありながらも、麻黄による発陽のリスクを含んでいるという運用上の難しさがあるのです

おそらく小青竜湯は、甘草麻黄湯を軸とした「水・腫れ」を取る力を、いかに体の弱い人でもある程度飲めるようにするかという目的をもって作られた処方です。例えば乾姜などの温性の生薬は体を温めるというよりもむしろ、麻黄による発陽を予防するために入れられていると考えた方が自然です。

しかし体の弱い人に、そこに負担をかけかねない麻黄を使う処方であることに変わりはありません。麻黄は心機能と胃腸機能に負担をかけます。すなわち、心機能の弱りのある人と、麻黄に耐え切れないほど胃腸の弱い人では、小青竜湯をそれなりに改良しながら使う必要があります。

そこが小青竜湯の難しさであり、古人もこの点に関しては相当心を砕いています。例えば本方の出典である『傷寒論』には、より体の弱い人に使う時の改良の方法が具体的に記されています。そして『金匱要略』にも本方を服用した後に出た副作用への対応が具体的に記されています。

その要点を述べれば、心機能の弱りがあったり、胃腸の弱さが麻黄に耐え切れないレベルである場合は、小青竜湯から麻黄を去り杏仁を加える(小青竜湯去麻黄加杏仁)との指示が『傷寒論』には書かれています。特に気管支喘息ではなく、心臓の弱りからくる心臓性喘息には麻黄剤は禁忌です。この辺りの見極めとその運用は、基本であると同時に症状を悪化させかねないリスクを孕んでいますので重々承知しておく必要があります。

麻黄を必要とする激しい症状を呈しながらも、体が弱い人にどう対処していくのか、つまり小青竜湯は体の弱さと症状の強さとのバランスを見て作られた処方です。そうであるが故に表れる症状にも様々な幅があります。また強さと弱さとを兼ね備えた症状が表れてきます。

例えば元来胃腸が強く筋骨がたくましい人であれば、浮腫が起こるにしてもそのせり出す力は強く、かつ漏れずに閉じ込める力も強い、故に腫れもパンと強くなります。その結果漏れるというようりも「詰まり」になります。したがって麻黄湯が適応する鼻炎は鼻詰まりが主となり、麻杏甘石湯が適応する気管支喘息は痰が発生する前のゼーゼーヒューヒューといった喘鳴が主となります。

一方、もともと弱さを持つ人に適応する小青竜湯適応者では激しい症状を出しながらもそこまで強く密閉することが出来ません。故に水が上に激しくせり出した後、溢れて漏れ出します。鼻水も詰まるよりはザーザーと流れ、気管支喘息もゼロゼロといった痰の絡む喘鳴となります。そして適応する方の体格も細い方が多く、もしくは色白でぜい肉の多いポチャッとした方が多い。絶対ではありませんが、筋骨がたくましいという方では小青竜湯はややぬるいという印象があります。

実際の臨床ではどうしも麻黄を使わなければ止まない鼻炎や気管支喘息が存在します。

しかし麻黄は体に辛く当たる場合がある。故にどうしたら弱い人でも麻黄を飲むことが出来るのかを考えた上で、苦心の末に作られたのが小青竜湯です。

古典を見ていると、小青竜湯からはそういう創作者の意図と苦労とがひしひしと感じられます。加減の多さや服用後の配慮などの記載を含めて、運用が難しいが故に特別扱いされている処方です。

また本方は石膏を加えて小青竜湯加石膏としたり、附子を加えて小青竜湯加附子としたり、さまざまな加減が指示されています。それぞれの使い方をちゃんと分かっている方は実は少ないのではないかと思うほど、大変奥が深い処方です。

そういう創作者の苦心を是非理解していただき、そのうえで小青竜湯を使ってみることをお勧めいたします。最初に申し上げたように、花粉症治療だけに使っているのでは勿体ないと思います。この薬の奥深さを是非、運用を通して実感してみてください。



■病名別解説:「花粉症
■病名別解説:「アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎
■病名別解説:「喘息・気管支喘息・小児喘息

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。