さて、次にもう一つの方向性、Dの「昭和後期から平成に書かれたもの」を読む意味について。
先にあげたグループ分けの中では、最も今に近い時代に書かれたものです。
漢方の書物は、時代が古くなるほど古文・漢文の読解を必要としてきますので、
このような現代に書かれた本が一番読みやすいと思います。
ただ、ちょっと待ってと言いたい。
やはり漢方の道を進んでいくのであれば、まずは昭和時代というやや古い所から始めるべきだと思います。
その理由と、昭和後期から平成にかけて書かれた本を読む理由とは同じです。
昭和の大家たちによる「漢方の復興」が現実味を帯び、さらに保険適用を経て漢方薬が広く認知されるようになると、
西洋医学的立場から漢方薬の本質を問う、という当然の流れが出てきます。
したがって昭和の大家たちが行ってきた「漢方の紹介」という立場は薄れ、
より実践的に「漢方治療の現代応用」という視点が全面に現れてくることになります。
漢方はより実践的になるほど、その方々独自の手法や考え方がどうしても必要になります。
したがって、一般的・導入的な内容よりも、個別的・応用的な色を濃く打ち出した書籍が多くなるのです。
昭和から平成にかけて出てきたこれらの書物は、臨床に対してすぐにでも直結できるような有意義な内容を含んでいますが、
同時に漢方全体の広い視点を失っているとも言えます。
本を書かれている先生方がそうである、というわけでは決しなく、
実践性を重んじる本である故に、広い視野をお持ちの先生であっても、そう書かざるを得ないということです。
このような即時的な本を読むと、漢方がとても良く分かったような気になれます。
実践的であるため、臨床でも良好な結果が出やすく、さらに分かった気になるでしょう。
しかし、決してその先はありません。つまり自分自身で自由な発想を行えなくなってしまいます。
発想できなくなるということは、漢方の理を掴もうとする力が無くなるということです。
その先生が言っていた以上のことが、そしてその先生が発揮された独自性に並ぶものが、作られなくなるということです。
現代に書かれている書物に関しては、このメリット・デメリットを初学のうちから知っておいて欲しいと思います。
その上で昭和から平成にかけて書かれた本で読むべきものを上げるとするならば、
・山本巌(やまもといわお)先生の著書
・花輪壽彦(はなわとしひこ)先生の著書
を上げさせていただきます。
山本先生は中医学と日本伝統医学(漢方)さらに西洋医学という、三つの異なる広い視点を俯瞰しつつも、実践的・本質的な運用を鋭く提示されています。
花輪先生は江戸・明治・大正・昭和という漢方の流れが帰結した医学を、現代医学にどう融合していくかという視点を示されています。
お二人の先生ともに、臨床応用という立場の中においても、漢方の全体性を失わない配慮がなされている本をお書きになっています。
先生方が示された現代応用を知るとともに、
なぜお二人がこのような理論を作り上げることができたのか、という所まで読むには、
これらの本の前に昭和の大家の書に馴染んでおくことが必要なのです。
(続く・・・)
これから漢方を志す方々へ 1
これから漢方を志す方々へ 2
これから漢方を志す方々へ 3
これから漢方を志す方々へ 4
これから漢方を志す方々へ 5
これから漢方を志す方々へ 6
これから漢方を志す方々へ 7
これから漢方を志す方々へ 9
これから漢方を志す方々へ 10
これから漢方を志す方々へ 11
これから漢方を志す方々へ 12