ストレスが原因ならばすぐ柴胡・芍薬を使いたくなるという失敗

2021年02月08日

漢方坂本コラム

今日のお話は内緒のお話です。(あとちょっとだけ難しいお話です・・・。)

日々の治療の中で実際に感じていることなので嘘ではありませんが、今から言うことは私の個人的見解です。だから内緒話をしているように話すのです。そのつもりでお聞きいただければ。

現代社会はストレス社会なんて言われ始めてすでにかなり経つわけですが、ストレスが原因で体調を崩したときは漢方薬が良い、なんて文言をあっちやこっちで良く聞くと思います。

そんな時良く使われるのが「肝鬱(かんうつ)」という言葉。はじめて聞く方もいらっしゃるかもしれませんがこれ、結構わかりやすい理屈です。

東洋医学でいう所の「肝」は「怒り」を主(つかさど)ると言われてる。そして肝が「疏泄(そせつ)」という働きを通して怒気を穏やかにさせているという考え方です。そのため沢山のストレス(正確にはストレッサー)を浴びるとこの「肝」が傷つき「疏泄」が乱れ「怒り」が高まる、そして心と体に不調をきたす、これが「肝鬱」だという理屈です。

そしてこの「肝鬱」によく使われるのが「柴胡(さいこ)」という生薬。肝鬱といえば柴胡、というくらい頻繁に登場する生薬です。さらに一緒に芍薬(しゃくやく)も良く出てくる。柴胡・芍薬の組み合わは「肝の鬱気を疎通して身体を柔らげる」という肝鬱を解除するための基本構成です。

この概念、漢方の世界ではどちらかというと「中医学」で使われていて、基礎中の基礎。しかし私は始め日本漢方から入ったのでこの概念を知らなかった。だからこれを聞いた時「へー!」と感動しました。自律神経失調に柴胡や芍薬を良く使うのはこのためかと。今までの解釈に一本筋が通ったような。中医学ってすごいなぁと、そこから中医学を勉強するようになりました。

ストレスが原因ならば「肝鬱」。「肝鬱」ならば「柴胡・芍薬」。自律神経失調や更年期障害でよく使われているこれらの解釈はとても理路整然としています。・・・でも内緒ですよ。内緒ですが、ちょっとだけこれ、「嘘」だと私は感じるのです。

嘘っていうよりはっきりいってそんな簡単じゃないです。ストレスが原因ってことだけで処方が決定できるわけがありません。今まで何度となく失敗してきました。肝鬱=柴胡なんて全然意味ないじゃんと、何度も何度も失敗してきました。

ストレスが原因ってことは確かにあるでしょうし、肝鬱という病態だって確かにあると思います。柴胡・芍薬だって私も使いますし良く効くことだって確かにありますよ。でも、原因がストレスってだけで全ての方に肝鬱が起こるわけじゃないし、そもそも柴胡・芍薬だって肝鬱に使うだけのものでは決してありません。疏泄って言葉もスゴく曖昧。未だかつてはっきりと解明されていない柴胡という生薬の薬能を説明するために作られた後付けの概念。私にはどうしてもそう、感じられてしまうのです。

肝鬱=柴胡なんていうのは嘘。ましてやストレスが原因=肝鬱なんていうのは全くのデタラメです。だからもしストレスで症状が発症していたとしてもそれだけで柴胡・芍薬を使う理由にはなりませんし、少なくとも臨床では通用しません。これが現実です。

柴胡は必ずしもストレスが強いときに使うという生薬ではありません。体がある淀(よど)みにおちいった時に使う生薬なのであってその原因の一つがストレスであるというだけです。本質的な薬能は、やはり桂枝湯の流れから解釈するべきじゃないかなと・・・。

さてここで「では柴胡の本当の薬能を説明しましょう」と切り出せればかっこ良いのですが、あ、もうこんな時間だ明日も頑張りましょう。

ということで続きはまたいつか。脱兎、布団にもぐりますおやすみなさいませ。

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