〇漢方治療の実際 ~【質問】漢方は何種類まで飲んでいいのか~

2022年03月25日

漢方坂本コラム

【質問】

病院で保険の漢方薬を処方されています。
はじめは2種類でしたが、なかなか改善しないこともあり、徐々に漢方薬の種類が増えてきています。
今は3種類から4種類の薬が処方されていますが、たくさん飲むことに抵抗もあり、このまま飲み続けて良いのか不安です。
何種類もの漢方薬を服用していても良いものでしょうか?

【回答】

今回のコラムでは、以前に患者さまからいただいたご質問を紹介し、それに対する回答を記載していきます。特に漢方治療において基本的な質問については、疑問に思っている方も多いかと思います。今回は「漢方薬は何種類まで飲めるのか」というご質問について。以下にお答えしていきたいと思います。

結論から言えば、治療方法として多種の処方を同時に服用するやり方は確かにあります。したがって自己判断ではなく、病院で出されているようならそこまで心配することはありません。ただし、条件が付きます。少し詳しく解説していきます。

漢方薬の剤形にはいろいろな種類があります。大きく分けると「煎じ薬」と「エキス顆粒剤」とがあります。煎じ薬は飲む際に煎じる手間のかかる薬ですが、薬としての純度が高く、効果が高い傾向があります。一方エキス顆粒剤は煎じる必要がないため手間なく飲める分、その製法上薄めざるを得ず純度が薄くなります。つまり基本的には効果が弱まります。

また本来漢方は処方中の生薬の産地や分量を調節することで、より各個人に合わせた自由な運用を行うものです。ただし、煎じ薬ではそれが出来てもエキス顆粒剤ではそれが出来ません。エキス顆粒剤は処方として固定されているので、個人差に合わせることが難しいというデメリットがあります。

そこで当薬局では主にその効果を鑑みて煎じ薬をお出ししています。そして煎じ薬の場合、基本的には多種類の処方を同時に出すということはしません

その理由はまず前提として、煎じる手間を考えると複数の処方を毎日煎じて服用するというのは、患者さまにとって大きな負担になるからです。したがってなるべく一種の処方で的確に治療を行えるようにします。そういう治療を日々心がけていると、一種で的確に病態を突く、という簡潔かつ本質を突く治療が自然と身についてきます。

つまり煎じ薬で治療を行う方が、より個人に合わせた治療を行えるのと同時に、治療の腕が上がりやすいのです。昔は漢方を専門的に扱う先生ほど、エキス顆粒剤ではなく煎じ薬を重用しました。効果が良いというだけでなく、自らの上達のためにも煎じ薬を扱う意味があり、漢方専門の医療機関であればあるほどその傾向は強いように思います。

ただし、エキス顆粒剤での治療が悪いわけではありません。勘弁に服用できるというのは治療を続けていく上でも非常に重要なことです。したがって漢方を熟知されている先生であっても、あえてエキス顆粒剤を主とされている方もたくさんいらっしゃいます。

とはいえ、エキス顆粒剤の場合、効能が弱めで、かつ個人差に併せにくい薬である点は否めません。したがってエキス顆粒剤では、それ相応の治療方法が必要になってきます。

その解決策の一つが多剤併用です。多種類の処方を同時に服用することで個人差に合わせていく。またマイルドで弱い分、副作用も少ない。薄い薬を複数重ねるという手法をもって、エキス顆粒剤の短所を補っているのです。

ただしそれは一種の専門的な技術によって初めて成り立つ治療です。エキス顆粒剤の多剤併用は非常に高度な手法であり、単に「証」をおいかけるという稚拙なやり方だけでは決して効果を発揮することが出来ません。

同じ漢方治療であってもエキス顆粒剤を扱う場合と煎じ薬を扱う場合とでは、全くといってよいほど処方の運用方法が異なります。同じ名前の処方であってもそれがエキス顆粒剤なのか、煎じ薬なのかでその効果も別物であり、それゆえに治療の考え方も全く変えなければなりません。

つまり、まとめると以下のように言えます。

漢方ではエキス顆粒剤での治療において、確かに3.4種類といった多種の処方を同時に服用するやり方は存在します。ただしそれは相当治療に熟練された先生方が用いる高度な手法であり、治らないからこれに変えてみよう、といった安易な治療では多剤併用の意味はあまり無いでしょう。

したがって漢方に精通された先生が行う多剤併用であれば、安心して治療を続けられて心配はありません。ちゃんと効果を感じておられるならば猶更です。そのまま服用を続けて頂くことをお勧めいたします。



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