ストーリーを診る

2024年01月11日

漢方坂本コラム

地元の甲府に戻り、

漢方の臨床を始めて十数年が経ちます。

その間、私の日常は傍から見たら、とても淡々としたものに見えるはずです。

毎日家と薬局との往復、

ここ十数年、ずっと同じ毎日を続けています。

しかし私は、そんな日常でも全く退屈がありません。

むしろ没頭の中にあると言っても良いと思います。

なぜなら、日々たくさんの物語を聞いているからです。

患者さまにはお一人お一人全く異なる、

壮大なストーリーがあります。

情熱大陸か、プロフェッショナルか忘れました。

ある外科医が特集された番組を、以前見たことがあります。

もちろん優秀な外科医の先生です。その道の先端を、長く走り続けている有名なドクターです。

その先生がお弟子さんたちと、ある患者さまについてカンファレンスしている場面がありました。

手術をどう進めようか。その先生は腕を組みながら、ただお弟子さんたちの意見に耳を傾けていました。

そして途中、その先生が一言発します。

「患者さんのストーリを把握している?」と。

患者さんはどんなお仕事でどんな生活を、今、そして今まで、されてきたのかと質問したのです。

手術は時によってたくさんのやり方があります。

そのうち、どの治療でいくべきか。そしてやったあとに、どのようなリスクを考えるべきなのか。

それは、病だけで判断するものでなく、あくまで患者さんのストーリーによっても決めるべきだと。

これからどのような生活をしていきたいのか、と。

これを見た瞬間に私は思いました。

西洋医学も東洋医学も根は同じ。到達しようとしている場所は、同じなんだなと。

患者さまにはストーリーがあります。

今まで続けてきた物語があります。

どのような場所に住み、どのような暮らしをして、時間と伴に変わったものと、今までずっと変わらなかったものと。

現状はただの一部でしかなく、その物語にこそ治療のヒントがあります。

捉えるべきはストーリーです。必要な情報を、ストーリーとして捉えるべきです。

そして、これからもその物語は続きます。

治療はその物語を、より良い方向へと導くためのものです。

ただ治れば良いというものだけではないと思います。

病を得たからこそ、これからの物語にとって大切なヒントになるべきです。

私の日常は、退屈などしている暇がありません。

日々、患者さまの生身の物語に、参加させていただいているからです。

自分自身が、患者さまの物語に、一人のキャストとして参加させていただいてる。

大変光栄であり、喜びを感じます。

そしてそれ以上に、強い責任を感じます。

この前、今まで診させて頂いた患者さまの人数を確認したら、

数千人いらっしゃいました。

数千の物語。

一瞬目がくらみました。

退屈など、している暇はないのです。



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