漢方治療の経験談「月経前症候群(PMS)治療」を通して

2023年06月08日

漢方坂本コラム

月経前症候群(PMS)は、漢方治療をお求めになる方の多い疾患です。

治療にあたっていてそういう実感があります。

当薬局でもかなり多くの方のご相談を受けてきました。

そして当薬局にご相談に来られる方の多くは、生活に支障が出るほどの強い症状を起こされている方々です。

ただしこの病は、そこまで強い症状がなくとも治療をお勧めしたいと感じます。

月経前症候群は非常にありふれた病で、月経前にまったく症状が起こらないというかたの方が、むしろ少ないのではないでしょうか。

ありふれているからこそ、ただ我慢し続けているという方が多いと思います。

特に身体症状があるならまだしも、単に気持ちが乱れるという程度では、我慢を続けてしまうのも仕方がないのかも知れません。

通常時には問題はない、しかし月経前に気持ちが敏感になるという場合、その気持ちの変化は多くの場合「性格」ではありません。

ただ性格と勘違いされてしまうことが度々あるし、本人でさえ、それを性格だと思ってしまうものです。

例えば漢方治療を行い、月経前の体調が改善すると同時に、気持ちが乱れることなくいつの間にか月経が来たと驚かれる方がおられます。

性格が変わったようだとおっしゃられます。イライラしたり、落ち込んだりすることなく、月経が来ることが不思議だと。

今までそれが通常の自分、自分の性格なんだと思っていたと、そうおっしゃられる方はかなりいらっしゃいます。

そもそも気持ちの乱れには正確な尺度がなく、感覚的にしか捉えることができません。

したがってどこからが症状で、どこからが性格なのか、分かりにくくても当然のことだと言えます。

良くなってみて初めて気が付く、そういう「生活の楽さ」というものがあって、

月経前症候群治療では特にそれを感じます。本当であれば我慢する必要がないもの、治るべきものを、我慢することが当たり前だったり、気が付かないがゆえに治せない・治さないという傾向がこの病にはあります。

そこで是非、専門的な漢方治療をとお勧めしたい所ではありますが、

全ての皆さんがそうするべきだというのは、やや現実味にかけると思います。

生活に支障が出るほどの症状があったり、他の病が併存していて複雑に絡み合っているようであれば、専門的な漢方治療を是非お勧めいたい所です。

しかし、例えば当薬局は一日分660円、かつ主に煎じ薬にて治療させていただいておりますが、費用的にも手間的にも、そこまでかけることが出来ない、必要性を感じないという方もいらっしゃると思います。

先で述べたように、症状がそれほど明らかではない、自分でも気が付きにくいような不調に対して、漢方を試してみたいなと思われた場合は、もっと簡単に試すという方法を取ることも手です。

漢方治療では気軽に行えるものがあります。そしてそういう漢方治療を提供している医療機関は、近年増えてきています。

例えば保険で出してもらえる病院であれば比較的安価で済みますし、漢方薬局でもお試しという形で薬を提供してくれる場所も増えてきています。

当薬局ではより治療に特化した漢方治療をご提供していますが、その前に、気軽に始められる治療で漢方を試されてみるというのも有意義だと思います。

手軽に行える治療をまずは行う。そして上手くいけば、経済的にも負担が少ない形で生活の質を上げることができます。

当然全ての病がお試し漢方をお勧めできるわけではありませんが、こと月経前症候群に関しては、隠れた体調不良、当たり前に我慢している体調不良が多く、またそれらが改善する可能性の高さから考えると、お勧めすることができます。

ただし、市販されている漢方薬をご自身で選択されることはあまりお勧めできません。

あくまでご相談できる医療者がいる場で選んでもらった方が良いでしょう。というのも月経前症候群は、その病態がかなり多岐に渡るからです。

個人差がとても大きいのです。そして、選ぶべき処方も一律とは言えません。

例えば加味逍遙散や当帰芍薬散、また桂枝茯苓丸など、月経前症候群を調べれば良く出てくる、婦人科で良く使われる処方だけでは対応することが難しいというのが本音です。

しかしひとたび自分に合う漢方薬が見つかれば、生活の心強い支えになってくれます。

広い漢方治療も、深い漢方治療も、要は使い方次第です。

自分自身の常備薬となるような漢方薬を一つでも多く作っていただければ幸いです。

アジア圏の中でも、日本はまだまだ漢方が根付いているとは言えません。

当薬局の性質上、なかなか私自身では行えないからこそ、間口の広い、いろいろな人に試していただける漢方が今後増えていって欲しいと思います。

そして増えていけば、医療者にとっても漢方の使い方をより深く学ぶ機会が増えるでしょう。

そうやって漢方全体がちゃんと医療として機能してくれる日が、一日でも早く来てくれることを心から望みます。



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