□蕁麻疹(じんましん)~なぜ繰り返すのか?漢方から紐解くその理由~

2019年12月04日

漢方坂本コラム

□蕁麻疹(じんましん)
~なぜ繰り返すのか?漢方から紐解くその理由~

<目次>

■抗アレルギー薬やステロイド軟膏・なかなか完治しない蕁麻疹
■繰り返す蕁麻疹 〜なぜ完治しないのか・なぜ再発しやすいのか〜
 1.蕁麻疹は体の自己防御反応
 2.蕁麻疹が再発する2つの理由
 3.慢性化へのスパイラル
■西洋医学で治らない蕁麻疹がなぜ漢方薬で改善可能なのか
■漢方治療・ここを見極めていないと絶対に治らないというポイント➀
■漢方治療・ここを見極めていないと絶対に治らないというポイント➁

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■抗アレルギー薬やステロイド軟膏・なかなか完治しない蕁麻疹(じんましん)

蕁麻疹(じんましん)は皮膚疾患の中でも非常に強い痒みを伴う不快感の強い病です。皮膚面に明確な膨疹が勢いよく発生し、さらに掻くと広範囲に広がっていきますので心配になる方も多いかと思います。しかし一過性のものであればそれほど心配はいりません。病院にかかり、抗アレルギー薬の内服やステロイド軟膏といった治療を行えば、多くのケースで即効性をもって改善します。

問題になるのは、一度治ってもすぐに繰り返してしまう蕁麻疹です。何度も何度も繰り返してしまうという状況になると、これらの治療を長期的に行い続けなければなりません。西洋医学では一時的なものであろと繰り返す蕁麻疹であろうと、基本的には同じ治療を行い続けます。薬を使えばその時だけ良くはなる、しかしどうしても繰り返してしまい根本から治っている感覚がない。そう思われている多くの患者さまが、漢方治療をお求めになる傾向があります。

再発を繰り返す蕁麻疹は、漢方治療によって確かに根治することが可能です。しかし何故根治できるのでしょうか。体の中から治すと言われれば、そうなのかと頷くことはできます。しかし漠然とした理解では十分に納得することができません。そこで今回、漢方薬が具体的にどうやって蕁麻疹を治しているのか、その点についてやや詳しく解説していこうと思います。なぜ蕁麻疹は起こるのか、そして蕁麻疹がなぜ完治しないのか。その理由を東洋医学的解釈をもって解説していくとともに、漢方の視点から捉える蕁麻疹治療の具体像をご紹介したいと思います。

■繰り返す蕁麻疹 〜なぜ完治しないのか・なぜ再発しやすいのか〜

蕁麻疹が一過性のものにとどまらず、何回も再発してしまうことには理由があります。その理由を説明するためには、そもそもなぜ蕁麻疹が起こるのかという点からお話しする必要があります。

1.蕁麻疹は体の自己防御反応

東洋医学的に蕁麻疹とは「体に侵襲してきた悪いものを外に出そうとする生体の防御反応によって起こる」と考えられています。強い痒みなどの不快感を伴いますが、本質的には身体が自分の体を治そうとしているから起こる、と解釈されています。

皮膚に炎症が起き、水ぶくれのような膨疹が広がっていくのは、体が不必要なものを体表面に出して破壊し、体内に侵入させないように頑張っているからです。発生させた炎症によってその悪いものを破壊し、体表面にて消失させれば、自ずと炎症が治まり不快感は消えていきます。つまり蕁麻疹は体がちゃんと自己防御反応を全(まっと)う出来さえすれば、症状が消失した後に再発を起こすことはありません。東洋医学ではそういう理解を根底に持ちつつ、蕁麻疹という病態を捉えています。

2.蕁麻疹が再発する2つの理由

この理解を前提とする時、蕁麻疹を繰り返してしまう生体側の理由は次のように説明できます。「体が自己防御反応を全う出来ていないから」です。一度の炎症という自己防御反応では体から悪いものを排除しきれていない、つまり目的が果たしきれていないために、その後何度も何度も繰り返し起こしてしまうわけです。

では、なぜ自己防御反応が一度の炎症で全う出来ないのでしょうか。それには2つの理由があります。

1つ目は、防御反応を充分に起こしていたとしても、体が悪いと判断したものを出し切れていない場合です。つまり外からの侵襲量が多い、また体内に悪いものが蓄積しているパターンです。次から次へと悪いのもが溢れてくれば、生体がいくらそれを排除しようと頑張っても出し切れず、何度も何度も排除反応を繰り返さなければなりません。蕁麻疹は一度で出し切ってしまえは次は起こりません。体に悪いものが継続して存在しているからこそ、生体防御反応を生じ続けてしまいます。

2つ目は、身体が悪いものに対して過敏に反応し過ぎてしまっている場合です。それほど頑張って外に出そうとしないでもいいものなのに、体がビクビクとしながら中途半端にそれを出そうとしてしまっているイメージです。このタイプでは通常は反応しないような異物に対しても、過剰な自己防衛反応を生じてしまいます。また発動に不安定さが伴うため、力強く排除することができません。したがってこの場合においてもやはり自己防御反応をいつまでも全うすることができず、何度も炎症反応を繰り返してしまいます。

3.慢性化へのスパイラル

さらに、これらの状況は互いに関連しながら発生します。体内に排除しきれないほど悪いものが存在している状況と、身体が敏感に反応しすぎてしまっている状況とは、伴につながりを持って生じることで、複雑に絡み合った慢性化へのスパイラルを起こしてしまうのです。

体内に排除するべきものが蓄積し、そのために炎症反応を何度も何度も繰り返していると、そのうち身体は敏感に反応しやすい状態を形成していきます。また体に敏感な状態があると、炎症が起きてもそれを出そうとする力が充分に発揮されないため、排除しきれない悪いものが体に残り続けてしまいます。つまり両者は関連しながら発生し、蕁麻疹を慢性化へと導いていきます。そしてこれらの関連が強ければ強いほど、蕁麻疹は強く慢性化へと進んでいきます。

短期間で頻繁に繰り返してしまう蕁麻疹では、多くのケースでこの悪循環が関与しています。つまり治療に当たっては両者を同時に解除していくという手法が必要になるのです。

■西洋医学で治らない蕁麻疹がなぜ漢方薬で改善可能なのか

一つ一つの漢方処方は多種の生薬により構成されていますが、それには当然意味があります。蕁麻疹治療にて用いられる漢方処方の場合、分かりやすく言えば「炎症を抑えながらも防御反応をスムーズに発揮させる薬物」と「身体の敏感さを改善するために血行を促す(安定させる)薬物」とによって構成されています。つまり漢方薬は、蕁麻疹を再発させやすい2つの原因に対して、それらを同時に配慮しながら処方が構成されているのです。

消炎作用のある漢方薬は、単に炎症を抑えるという意味にて用いられるものではありません。過剰な炎症を抑制しつつも、炎症を充分かつスムーズに発揮させながら治療していくという意味で処方内に加えられています。例えば皮膚治療薬として有名な黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、これは清熱薬と呼ばれ強い炎症を冷ます薬として用いられます。しかし炎症を抑えるだけの抗炎症薬では決してなく、あくまで炎症をスムーズに進めていくための薬です。その点を理解していないと、熱が強ければ黄連解毒湯といった短絡的・一律的な運用方法になってしまいます。そしてそういう運用方法では炎症を鎮めることが出来ないという臨床の現実があります。

また身体が敏感であるという状態は、血流の不安定さとして表れます。そのため血流を充実させると、その不安定さが改善されると共に敏感さが無くなってきます。皮膚治療に用いられる漢方薬には多くのケースで血流を促す薬物が内包されていますが、これは血流の不安定さを是正することで敏感に反応しやすい皮膚状態を改善していくという目的をもって付加されています。

これらの手法に対いて、ここでは前者を「清熱(せいねつ)」、後者を「活血(かっけつ)」と呼んでみたいと思います。一般的に言われる清熱・活血とは意味が同じではありませんが、あくまで便宜的にこう呼んでみたいと思います。

■漢方治療・ここを見極めていないと絶対に治らないというポイント➀

皮膚治療にて用いられる様々な漢方処方は、これら「清熱」と「活血」との薬能をそれぞれ異なる配分をもって構成されています。そして蕁麻疹治療において最も大切なこと、それはこれらの薬能の本質を捉えた上で、状況に的確に合わせた処方調節を行うという点にあります。清熱を主とするのか、それとも活血を主とするのか。これらの配分を患者さまの病態を見極めた上で、正しく適応させなけばなりません

同じ蕁麻疹であったとしても各患者さまによって状況が全く異なります。清熱と活血、どちらを主とするべきかが全く違うのです。この判断を間違えると効果が無いというだけではなく、逆に症状を悪化させることさえあります

例えば体内の毒が旺盛で、そのために炎症の勢いが強く自己防御反応が激しく行われている時は、それをスムーズに終息させる清熱を主としなければなりません。しかしここで活血を主としてしまうと、体内の毒は逆に暴れます。血行を促すことでさらに炎症が強くなり、過剰な自己防御反応がさらに助長されて皮膚炎がみるみるうちに悪化していきます。一方で体が敏感なために些細な刺激で炎症を起こしてしまっている場合では、血流を安定させる活血を主として行わなければなりません。この時逆に清熱を行ってしまうと、血行が乱れてさらに不安化し、より敏感になってしまうと同時に慢性化傾向を悪化させることにつながります。

蕁麻疹治療のポイント、その一つ目はこれらの正確な見極めと鑑別とにあります。下手をすると悪化させてしまう可能性がある。だからこそ、まずはこれらの正確な見極めが絶対条件として求められます。

■漢方治療・ここを見極めていないと絶対に治らないというポイント➁

さらに、蕁麻疹には他の皮膚病にはない東洋医学的な特殊性があります。

蕁麻疹にて発生する膨疹は、その病巣が真皮上層部の浮腫として観察されます。そして東洋医学では昔からこれを「皮膚に水が浮き出ている」と解釈することで治療してきました。実際に蕁麻疹治療では、身体の水の氾溢(はんいつ)と偏在(へんざい)とを解消していく手法を用います。そしてこれをうまく活用することが出来ると、即効性をもって蕁麻疹が治療できるようになります。

つまり蕁麻疹治療においては、身体の水をどのように調節していくかという課題が常につきまといます。水の氾溢を鎮め、偏在を是正するためにはどうしたら良いのか。漢方では「水飲(すいいん)」・「水気(すいき)」・「湿(しつ)」などといった概念をもって、これらの治療方法を古くから提示してきました。そして比較的最近になって、これらの概念を基本として考案された「温病(うんびょう)」という概念もあります。これらをどの程度深く、正確に、把握できているかということもまた、実際に効果を発現させ得る薬方を選択する上で重要なポイントになってきます。




■病名別解説:「蕁麻疹・寒冷蕁麻疹

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