□胃痛・胃のはり・胃の重さ ~何をやっても治らない胃症状と漢方薬~

2024年08月05日

漢方坂本コラム

□胃痛・胃のはり・胃の重さ
~何をやっても治らない胃症状と漢方薬~

<目次>

漢方薬と胃症状

漢方薬は胃をどのように治すのか

漢方薬による胃への効かせ方

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

胃痛と言えば、以前は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の方が多かった印象があります。

しかしピロリの除菌によってこれらはの疾患は減りました。その反面、機能性ディスペプシアなどの比較的新しい病の認識により、今でも胃に不快感を訴える方は少なくありません。

そういう病の変化に伴い西洋薬ではたくさんの胃薬が開発されてきました。ただしそれらの胃薬をもってしても、どうしても治らない胃症状があるというのが現実です。

基本的に漢方治療をお求めになる方はそういう患者さまです。つまり病院に行っても問題ないと言われる、もしく西洋薬を使っても充分に治らないという方です。

しかし果たしてそういう方が本当に漢方薬で良くなるのか、何で良くなるのかと不思議に思う方もいらっしゃると思います。

そこで今回はなぜ漢方薬が効くのか、その理由について、私の経験からくる解釈の中で説明していきたいと思います。

漢方薬と胃症状

西洋薬にて治らないような複雑な胃症状がなぜ漢方薬で改善するのか。

その理由は一言でいえば、胃に対する作用が西洋薬とは異なるからです。

漢方薬は西洋薬のように胃粘膜を保護したり、胃酸の分泌を抑制して胃症状を改善するわけではありません。

おそらく胃腸の活動を安定させています。具体的には消化管平滑筋の働きかけて、活動の弱さや過剰な活動を是正しているフシがあります。

また同時に平滑筋活動の是正を通じて、胃腸の血流を改善しています

血流が行き届いてない部分や、充血を起こしている部分の血流を通常状態に戻すことで、組織の回復を図っています。

胃潰瘍であろうが、機能性ディスペプシアであろうが、胃に症状を起こす病の中で平滑筋活動の乱れと血流障害が介在していない病はありません。

そういう胃病の根本的な部分に漢方薬は介入します。これが漢方薬では病名によらず治療を行える所以でもあります。

漢方薬は胃をどのように治すのか

ではどのようにして消化管平滑筋の活動と血流とを改善していくのでしょうか。

漢方ではたくさんの胃腸薬がありますが、結局のところこれらは全て「消化管に何らかの刺激を与えることで、その活動を血流とを変化させる薬能を持つ」のではないかと考えています。

例えるならば、動きの悪い筋肉の管、そこにカンカンと棒で刺激を与えながら動きを良くしていくイメージです。

ただし薬によってその刺激の質や強さが異なります。その質や強さに様々な種類があるために、漢方では胃腸薬がたくさん用意されています。

そして何故こんなに多くの刺激が用意されているのかというと、それは胃腸の状態が人によって千差万別だからです。

強く濃い刺激を与えないと動かない人もいます。逆に強い刺激だと胃腸が壊れてしまう、むしろ弱い刺激の方が効いてくれる人もいます。

筋肉活動は単に動く・動かないというだけで論じられるものではありません。

強さ・弱さ・敏感さ・繊細さ・不安定さなどが一人一人全く異なる、故に治療にあたってはそれらの性質に合わせて薬方を選ぶことが肝要であり、むしろそれが胃症状治療の本質であるといっても過言ではありません。

その証拠に、漢方では昔から胃に起こる症状を、非常に細かく表現を変えながら分類しています。

漢方では胃(みぞおち)のことを心下と呼びますが、例えばみぞおちが張って痛むことを「心下満微痛」といい、また痞えることを「心下痞」といい、同時に硬くなることを「心下痞硬」といってみれば、一方で同じく痞えていることを「心下支結」といったりもします。

みぞおちに起こる症状をここまで細かく見極めるよう指示しているのは、消化管活動と血流との乱れにそれだけ多くの種類があるからです。そしてその程度や質を見極めることが重要であることを示唆しているわけです。

漢方の名医は胃に起こる症状を、単に胃の不快感とだけ解釈することは決してしません。

心下がどのような不調を起こしているのかを見極める、その程度や質を入念に観察するよう心掛けています。

さらに、胃に起こる症状をここまで細かく区別している理由が他にもあります。

胃は東洋医学において、からだ全体の働きを左右する重要部位だと考えられているからです。

例えば頭痛やめまい、肩こりや首こり、息苦しさや動悸、不眠や疲労感、浮腫みや咳・喘息に至るまで、漢方の胃腸薬は一見胃腸に関係ない症状でさえも改善してしまうことがあります。

これは胃腸が単なる消化・吸収・代謝・排泄の場というだけでなく、よりからだ全体に影響を及ぼし得る臓器だということを古人が理解していたからであり、そのために出来るだけ詳しく胃の症状を分類したのです。

実際の臨床でも、胃の張り・胃もたれ・胃の重さ・胃の痛みなどなど、胃からくる症状は訴える人によってその表現がさまざまです。

そういう現実から治療方法が組み立てられているのが漢方です。故に胃からくるどのような訴えであったとしても、漢方薬で改善できる可能性は十分にあります。

漢方薬による胃への効かせ方

漢方薬にはたくさんの胃薬がありますが、効かせ方の本質は上述の通り、自分の胃腸に対して丁度良い刺激を作り出せるかどうかが全てです。

例えば六君子湯には六君子湯の、半夏瀉心湯には半夏瀉心湯の、それぞれ特有の刺激があります。

その刺激と、自分の胃腸が必要としている刺激とがちゃんと合っていないと効果が出ない。漢方にはそういう特徴があります。

ただし胃腸が必要としている刺激は人によって千差万別です。100人いれば100人違うといっても過言ではありません。

つまり胃症状治療にて最も重要なことは、薬の刺激の調節です。

出来合いの一つの処方だけで上手くいくということの方が少ないと思います。漢方薬を飲んでも胃には効かなかったという方の多くが、効果は刺激の調節ありきで発揮されるという治療の基本が理解されていないために起こっています

例えば生薬の質にこだわる煎じ薬で本質を突くか、もしくはエキス顆粒剤なら合方(複数処方を混合する)によってその刺激を細かく調節するか。

そういう細かな配慮によってはじめて胃症状は改善へと向かいます。

考えてみれば当たり前のことで、胃腸は人によってその状態が全く異なるからです。

目・鼻・口はみんなついている。しかし同じ顔の人は一人もいません。当たり前のことですが、胃腸も同じ、人によって状態は全く違っています。



■病名別解説:「慢性胃炎・萎縮性胃炎
■病名別解説:「胃潰瘍・十二指腸潰瘍
■病名別解説:「逆流性食道炎
■病名別解説:「胃酸過多症

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら