【漢方処方解説】加味逍遙散・逍遥散(かみしょうようさん・しょうようさん)

2022年04月04日

漢方坂本コラム

加味逍遥散・逍遥散(かみしょうようさん・しょうようさん)

<目次>

逍遥散適応者の傾向

■見れば分かる・逍遥散が効く人の体質
■逍遥散の本質とその使い方

加味逍遥散とは

■加味逍遥散と逍遥散・両者は別物
■加味逍遥散の範疇

加味逍遥散・逍遥散の具体的な使い方

1、月経前緊張症(PMS)
2、細菌性膀胱炎
3、尋常性ざ瘡(ニキビ)
4、過敏性腸症候群(IBS)・便秘・下痢

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月経前にイライラする、といえば加味逍遙散。

そう想起するほど、本方はPMSに頻用されている有名処方です。

ただし当然、PMSにおける全てのイライラにこの処方が効くわけではありません

そこでこの処方が効く場合と効かない場合との違いを、一歩踏み込んで解説していきたいと思います。

この処方を理解するためには、その成り立ちを知る必要があります。

まずこの処方には原型があります。それを逍遥散といいます。

そこに牡丹皮ぼたんぴ山梔子さんししという身体の興奮や炎症症状を抑える清熱剤を加えたのが加味逍遙散です。

すなわち加味逍遙散を知るためには、まず逍遥散を理解しなければなりません。

逍遥散適応者の傾向

■見れば分かる・逍遥散が効く人の体質

逍遥散が当てはまる方には、ある特有の体質や、そこから醸し出る雰囲気があります

それはかなり分かりやすいもので、臨床をこなしている先生であれば、お会いしてから少しお話をしただけで「逍遥散が効きそうだな」と感じることができるものです。

この体質的傾向を、最も的を射た形で説明したのは山本巌やまもといわお先生だと思います。

雑誌『THE KANPO』において、先生は逍遥散を四物湯と比較しながら解説しています。

四物湯は一般的に血を補う補血の要薬と言われていて、月経異常や出血などの症状にしばしば用いられる基本処方ですが、逍遥散も同様に婦人科領域においてしばしば頻用される補血剤です。

この両者を先生は、おおよそ以下のように説明しています。

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月経異常には、私は四物湯に加減しているんです。ところが香月牛山かつきぎゅうざんという人(江戸時代の名医)は、その加減法を四物湯ではなく逍遥散にやっているんです。

よく考えてみたんですが、香月牛山というのは御殿医ごてんい(江戸時代の幕府や大名の抱えの医者)なんです。診た患者が籍入り娘とか、深窓の武家の妻女とか、そういうのばっかりです。

四物湯の加減を紹介した『万病回春』なんかは、百姓のおばさんばっかりですから。香月牛山の診たのは、落語に出てくる崇徳院の「別れても後に逢わんとぞ思う」で、好きな男性に会っても「アイラブユー」と言えないし、相手の名前すら聞いてこれないで恋わずらいに陥ってというようなタイプばっかり診ていたと思うんです。

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JIN(仁)という漫画を見たことがあるでしょうか。

現代の医者が江戸時代にタイムスリップし、当時の病気をどんどん治していく物語です。

大沢たかお主演でドラマもありましたが、ぜひ漫画(原作)を見て頂きたい。時代考証がしっかりとされていて、それにとても興味深い人物がたくさん登場します。

主人公が川越藩に赴き、その御正室に治療を施すシーンがあります。奥方は左顎下腺の多形腺腫、診たところ良性にて癌ではありませんが、重度の貧血症状があり手術が難しい状況です。さらに顎に大きな膨らみを抱えていることから、その醜態に本人の気の塞ぎが凄まじい。そこを南方仁は、生来の仁の心と輸血という裏技を使って患者を救っていくわけですが、注目してほしいのはこの奥方の人物像。まさに逍遥散が効きそうなタイプの人なのです。

神経が細かく、思い煩いが強く、ささいなことで気を悪くし、さまざまな心理的ストレスにあーうーと胸を痛める敏感な方思い煩い食事もままならないのでしょう貧血を呈している所など大変にリアルです

このような人は、百姓家ではなく公家や位の高い武家などの高貴な家柄に当時はたくさんいました。仁の話の中でも、同じタイプの方が沢山出てきます。これらの人物はまさしく逍遥散が適応するタイプです。ただしこれは江戸時代だけに限ることではなく、現代でもそのような傾向を持つ方は、実はたくさんいらっしゃいます。

例えば皆さんの職場にもおられるかもしれません。細く女性的で背筋がピンと伸びていて、気軽に声をかけるのが憚れるような気の張りがあり、理知的で几帳面、物言いに硬さがある方肢体はか弱く、肉体労働向きでは決してない

気だの血だのと難しいことを考えなくても、このタイプの方は一見して分かりますこういう方に、逍遥散はとても良く効きます

■逍遥散の本質とその使い方

漢方というのは、その方が持った生来の体質というもので処方が決まるということが確かにあります。

例えば田舎のお母さんタイプの方。恰幅が良く、子供を叱るときはガーっと怒り、体格良く少々の力作業ではへこたれない、食欲もあり沢山たべなければやっていけない、そういう方の月経問題ならば、四物湯が効果的です。

一方で、元来体もあまり丈夫ではなく、力仕事などには不向きで何よりも似合わない。ツンとして気が強い反面、少々のことで思い煩い心を痛めやすい。食事も美味しいものを少しずつ食べたいタイプ。こういう方であれば四物湯は合いません。

四物湯に含まれる当帰や地黄は、こってりとした油もののように少々胃に負担をかけるからです。しかし月経の問題を解決するために四物湯の方意は欲しい。だから地黄を抜いて当帰を残し、刺激の強い川芎も除き、さらに当帰を薄める形でいろいろと胃腸に優しい薬を加えて作られた方剤、それが逍遥散です。

つまり逍遥散は、もともと胃腸が弱めで薄弱とした方の月経問題に使うというのが本筋です。普段は食欲があっても、思い煩うと反って食欲を無くすというような繊細な方。したがって逍遥散の骨格はまさに胃腸薬になっています。

さらに体の繊細さは気持ちの過敏さを招きます。故に自律神経の安定を図る薬能を同時に付加しています。そして血流を促し子宮を温める当帰の重さをこれらの薬で薄める。そうやって、繊細・敏感な方でも問題なく滲み込むような、良い意味で薄く、かつ効果的な処方を作り上げたのです

逍遥散を初めて世に出した『和剤局方わざいきょくほう』では、虚労きょろうと呼ばれる疲労状態を呈した婦人の病に使う薬として紹介しています。さらに発熱などのある種の興奮状態を落ち着かせる薬能があることも提示しています。つまり、先に紹介した山本巌先生が述べた体質者がまさしく逍遥散の正証で、ポイントは決して頑丈ではない体格と胃腸、さらに気の張りを感じさせる神経の繊細さを的にすることが正しい使い方なのです。

加味逍遥散とは

■加味逍遥散と逍遥散・両者は別物

さて、加味逍遥散は先述のようにこの逍遥散を改良した方剤です。牡丹皮・山梔子という清熱薬を加えますが、あくまでこの逍遥散が処方の骨格になっています。

つまりこの手の心身の薄弱さを持つ方に使うというのがベースになっているわけですが、ただし加味逍遥散と逍遥散とでは、当然その適応者に違いが出てきます

山梔子と牡丹皮というのは、身体に起こる一種の興奮状態を沈静化させる際に用いられる生薬です。逍遥散の適応者は敏感な方が多いので、その緊張・興奮が強まった場合にこれらを足すというのが定石です。

たとえば敏感さからイライラをつのらせ、頭にカーっと血が登るように強く起こる方であれば、逍遥散より加味逍遥散の方が良いでしょう。また赤いニキビが多発するとか、赤みや痒みが強い蕁麻疹が起こるような場合でも加味逍遥散の方が良いと思います。

ただし、元来逍遥散の適応者は貧血を醸すような薄弱とした弱りを持つ方です。そういう弱い方では、緊張や興奮がそこまで強いものにはなりにくいという傾向があります。イライラしてそれを外に出したとしても、勢い強く出るというよりは、チクチクと細かく吹けば飛ぶような根のない怒気が多いものです。出るニキビも淡いピンク色から白色で、真っ赤に腫れるということにはあまりなりません。

つまり通常は、逍遥酸適応者であれば山梔子・牡丹皮を必要とするような興奮や炎症は起こりません。さらに山梔子・牡丹皮は胃もたれや下痢を誘発させることがあるため、胃腸の弱い傾向をもつ逍遥散適応者では簡単に加えて良いような生薬でもありません。

つまり加味逍遥散は、逍遥散適応者が強い炎症を起こした場合に使う、と理解するべきではありません。あくまで逍遥散とは違う、加味逍遥散が適応しやすい体質者がいると理解するべきです。

■加味逍遥散の範疇

結論から言うと加味逍遥散は、逍遥散よりも胃腸が強く、逍遥散よりも肉付きに締りがあり、逍遥散よりも気の張りが強いという、胃腸・体格・興奮のボルテージがやや高い状態の方に適応する方剤です。

ある意味、体の強さとしては逍遥散と四物湯との間にあるような処方で、恰幅のよいお母さんとまではいかないものの、色白で明らかに薄弱とした印象の方に使う処方でもありません。

逍遥散が青白く柔らかい肌質の方に使う一方で、加味逍遥散はより締まりがある、黄色から褐色に近いような肌質の方に適応する傾向があります。貧血があったとしても肌の色まで変化していない、そんな場合に加味逍遥散を使う・使えると判断することが多いのです。

私はあまりやりませんが、歴代の名医の治療を見ていると、加味逍遥散と四物湯とを同時に服用させる、つまり加味逍遥散合四物湯という処方がしばしば使われています。

浅田宗伯も炎症と痒みの強い皮膚病にこの合方を用いています。逍遥散合四物湯ではなく、あくまで加味逍遥散と合わせるという所に理があるのです。

ただし私見では、加味逍遥散よりも逍遥散の方がずっと使いやすいと思っています。加味逍遥散は山梔子と牡丹皮とを加えることで、あくまで的が狭くなる、中途半端といっても良いかもしれません。興奮や炎症に対して効果を高めた処方ではあるものの、その分ある意味適応の幅を狭めた処方であるとも言えます

加味逍遥散・逍遥散の具体的な使い方

最後に逍遥散・加味逍遙散の具体的な使い方を示しておきます。かなり広く応用される処方です。一部ではありますが、参考にしてみてください。

1、月経前緊張症(PMS)

先に述べた体質者、つまり肢体細く気の張りが強く、かつ貧血の傾向があるような薄弱とした雰囲気を持つ方のPMSに逍遥散は良く効く。深く眠れるようになってイライラがおさまり、肌荒れがなくなって月経痛が緩和されたりする。体質的傾向のコツさえつかめば非常に使いやすく、かつ即効性をもって効果を発揮することが多い。加味逍遥散は先に述べた通り、火がつく強さがあるかどうかで使い分ける。

2、細菌性膀胱炎

細菌性膀胱炎を繰り返しやすいという方に加味逍遥散が良く効く。歴史上、加味逍遥散を紹介した薛己という人物は瘍(おでき)の治療に長けた人だった。化膿性の炎症を起こす慢性疾患に山梔子・牡丹皮は効果的で、その運用の一つが膀胱炎である。ただし間質性膀胱炎には加味逍遥散ではややぬるい。

3、尋常性ざ瘡(ニキビ)

化膿性炎症である尋常性ざ瘡(ニキビ)では加味逍遥散の出番が多い。特に月経前に悪化する傾向がある方。経前の過食をやめ、加味逍遥散を続けるとニキビ痕も含めて良くなることが多い。加味逍遥散は米粒から小豆大の赤いニキビ、逍遥散が治すニキビは白ニキビである。赤いニキビで大きく腫れるという場合は黄連が必要。

4、過敏性腸症候群(IBS)・便秘・下痢

先で述べた通り、本方の基本骨格は胃腸薬である。消化管平滑筋の緊張を緩和し、胃腸活動を安定させる。故に過敏性腸症候群に使用される機会があり、便秘型には加味逍遥散が、下痢型には逍遥散が使われやすい。ただし当帰が胃腸に負担をかける場合があるので注意。また山梔子の連用も腸に障る場合がある。注意が必要である。



■病名別解説:「月経前緊張症(PMS)
■病名別解説:「膀胱炎・間質性膀胱炎
■病名別解説:「ニキビ・尋常性ざ瘡
■病名別解説:「過敏性腸症候群

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