■症例:咳喘息

2019年08月17日

漢方坂本コラム

近年の中・高校生は過酷である。

両親・友達という濃密な人間関係が、SNSの影響で一層複雑さを増した。
そして部活・塾・学校行事・受験というハードスケジュールを駆け抜けていかなければならない。
しかも、成長期という不安定な体で、である。

今回の男の子も、そんな学生の中の一人である。

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17歳。

大学受験を控えた高校生。
何とか早く良くしたいと、お父様とご一緒に来局された。

テストで3週間ほどずっと集中し続けた。その後、発熱とともに咳が止まらなくなった。
次第に熱は弱まったものの、咳が止まらない。それから2カ月後、咳喘息と診断された。

説明する言葉には喘息特有のか細さがあった。
しかし、できるだけ正確に伝えようとする姿勢がひしひしと伝わってくる。

このまま受験を迎えていいのか。今まで頑張ってきたものが台無しになってしまう。
早く何とかして欲しい、早く改善して欲しい、そういう強い意志が言葉の端々に滲み出ていた。

体調を詳しく伺う。

肉質柔らかく色白。咳は空咳で痰はあまり絡まない。
また今でも夕方に微熱が起こる。そして体が温まると咳が頻発するという。

何よりも顕著なのは疲労感だった。

なるほど、、咳が治りきらないはずである。

不安定な体の上に、睡眠不足や過剰な集中を継続させてしまったのであろう。
残存する咳は、身体の悲鳴、そのものだった。

私は摩耗するボディでアクセルを踏み続ける車を連想した。
ボディは咳の止まらない身体、そしてアクセルは頑張ろうとする意志である。

私は活動しっぱなしのエンジンを落ち着かせる薬方を出した。
その意志をまっとうするために、先ず必要なのはブレーキである。

漢方薬を服用した後、最初のリアクションは「おいしい」だった。

服用後から明らかに咳が引き始めた。
日中の疲労感が減り、夜も熟睡できるようになったという。

来局するたびに、私は「無理は禁物だよ」と言い続けた。
成長期の体は不安定である。案の定、無理をした時には必ず咳が強くなる。

早く治したいという気持ちをコントロールすること。
彼は賢かった。今の状態を知り、自分にとって何が必要なのかすぐに理解してくれた。

そして無理をやめた。充分な睡眠と規則正しい食事。どような生活をすれば改善していくのか、そのコツを掴み、実践してくれたのである。

その後は順調だった。
一月で症状が半分になり、二カ月でほとんど起こらなくなった。
そして念のため三カ月服用したところで、漢方薬を一旦排薬し、治療を完了した。

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さて、ここからが本番である。

彼にとって治療の完了は新たなスタートでしかない。
これから向かう大学受験という勝負、その勝負に勝つことが本当の目標である。

ただ私は、今回の治療を経験したからこそ、頑張ってくれるのではないかと思ってる。
彼は自分を知り、実際に行動した。普通はなかなか出来ないことである。

きっとその経験が役に立ってくれるはず。
遠くから祈る気持ちで、応援しています。



■病名別解説:「喘息・気管支喘息・小児喘息

〇その他の参考症例:参考症例

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