参考症例

■症例:後鼻漏(慢性副鼻腔炎)

今回の患者さまの場合、ポイントになるのは「胃」。胃を刺激する食べ物で後鼻漏が悪化するのである。鼻の「淀み」と不調を抱えた胃、これら両者が互いに関連して起こることがある、という経験則に基づいた事実である。私は副鼻腔の「淀み」を洗い流すと同時に、スムーズな胃活動へと導く薬方を出した。

■症例:脊柱管狭窄症

67歳、女性。足の付け根(臀部)に痛みが走った。病院にて診察を受ける。検査の結果「脊柱管狭窄症」と診断された。腰の骨(腰椎)が変形し、脊髄が圧迫されている。臀部の痛みと足裏の痺れは、それが原因だった。患者さまから「漢方薬で骨の変形が治るのでしょうか?とのご質問を受けた。私はこうお答えした。現実的に、漢方治療で骨の変形を治すことは難しいかもしれません。しかし、痛みや痺れを取ることは、おそらく可能です、と。

■症例:胆石症

40代、女性。一昨年の夏、健康診断で胆石が見つかった。食事制限が難しい環境にある患者様で、生活の見直しはなかなかできなかった。私は消化管の緊張を解除する薬方を出した。体の中心をリラックスさせる。すると不思議とからだ全体へとそれが波及する。14日後、食後の胃もたれを感じなくなったとの報告を聞く。さらに薬を服用した後、お腹があたたまり、脇腹の慢性的な重さが和らいだという。

■症例:クローン病

50歳、男性。消化管全体に断続的な炎症を起こす病、クローン病。原因は不明。一度良くなっても再発を繰り返しやすい。患者さまには明らかな脱水症状が見られた。補陰を主とし、まずは生命力の根本を立て直す治療から入った。服用14日後、今まで少量しか飲めなかった経口栄養剤の量が徐々に増えてきた。それによって体重が増え始め、体がしっかりしてきたという実感が出てきた。一か月後、足のつれがなくなり、良く眠れるようになった。

■症例:不眠

36歳、女性。睡眠導入薬を毎日服用している。それでウトウトとはするが、常に頭は覚醒していて少しの物音で起きてしまう。食欲も、便通も、睡眠も、すべて乱れていた。そしてこれらの原因は、実はすべて同じである。体力の不足。人間が本質的に持つはずの力の弱り。完全に「虚」に属する病態であった。原因が同じである以上、一つの薬で足りる。体力を回復させることで、快食・快眠・快便へと向かわせるのである。

■症例:過換気症候群

39歳、男性。過換気症候群。何度病院に通うも問題ないと言われていた症状が悪化し救急搬送された病院で、こう診断された。クリエイティブかつ斬新な技術を持つ西洋医学をもってしても、問題を見つけられないケースが存在する。だからそれを補うべく、漢方家は体の中を「想像」する手法を磨き上げた。この患者さまの症状は、心中・心下の積気。古人が「中脘(ちゅうかん)の結聚」と呼んだ病態である。

■症例:蕁麻疹(じんましん)

40代、女性。皮膚科で消風散(しょうふうさん)の顆粒を出してもらった。炎症が引かないため、その後、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が追加された。患者さまの体調を詳しく伺う。なるほど方向性は正しい。しかし工夫が足りなかった。私は消風散と黄連解毒湯を出した。同じく顆粒剤である。ただし一工夫を加えた。それは経験から得たコツだった。患者さまの蕁麻疹は、飲み始めて一週間ほどで起きなくなった。

■症例:過呼吸

15歳の女の子。過呼吸で来院された。選択した漢方薬で、調子は日に日に良くなっていった。しかしある時、異常事態が起きた。足が動かなくなったのだ。病院では首を傾げられた。脳も、整形外科的にも、問題はなかった。私は沈思の末、思う所があった。それは師匠の教えであり、江戸名医の口訣でもあった。ただ一点だけ、今まで服用していた薬を私は変化させた。そして、薬を出して3日後、松葉杖無しで普通に歩いてくる笑顔の彼女がいた。

■症例:咳喘息

17歳。大学受験を控えた高校生。体調を詳しく伺う。何よりも顕著なのは疲労感だった。なるほど、、咳が治りきらないはずである。不安定な体の上に、睡眠不足や過剰な集中を継続させてしまったのであろう。残存する咳は、身体の悲鳴、そのものだった。私は活動しっぱなしのエンジンを落ち着かせる薬方を出した。服用後から明らかに咳が引き始めた。日中の疲労感が減り、夜も熟睡できるようになったという。

■症例:体調不良

87歳、女性。患者さまはほとんど話さず、見かねた息子さんが、様態を話し出した。この患者さまの体力は、実は何も話せないほどに底を突く気配を見せていた。私は、最も「虚」に用いるべき薬方を出した。服用して一週間で、身体が温まり咳が止まったという。私はむしろ、素早い変化をより穏やかに進むよう配慮した。体力の無い方ほど、早い変化によって体に負担をかけるべきではないからである。その後、患者さまは日に日に良くなられた。