漢方坂本コラム

処方の先に見えるもの

どんな患者さまでも、たとえ本人が病と闘う気持ちを失っていたとしても、治ろうとしていない体などありません。薬は、その治ろうとしている体が、欲しているものを、救わんと欲することを、ただ形にするだけ。漢方家にとっての薬は、患者さまに伝えるべき言葉、そのものです。

【漢方処方解説】半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)は、胃腸の弱い方のめまい・頭痛・耳鳴りの薬です。水毒(水分の停滞や偏在)を治す薬として有名で、起立性調節障害やメニエール病などに使われています。胃腸の弱さを回復する六君子湯や、疲労を去り体力を回復させる補中益気湯に、天麻や沢瀉などの頭部や耳部に効果的な生薬を加えています。

漢方治療の経験談「不眠症・睡眠障害治療」を通して

眠りは日中の運動、適切な食生活など、からだ全ての活動が順調に関連した結果として起こります。漢方ではこの関連に着目します。従って、例えば不眠治療で有名な酸棗仁湯(さんそうにんとう)や温胆湯(うんたんとう)、抑肝散(よくかんさん)などを無作為に飲んだところで、眠れるようにはならないというのが臨床の現実です。

悟りの実験

新しい知識を入れる一方で、本当に大切な知識を見失うことがあります。患者さまから多くの情報を得れば得るほど、情報の波にのまれてしまうことがあります。本当に大切な「当たり前のこと」を、患者さまと共にで見つけていくことが、上手な漢方治療を導く最大のコツだと、私は感じます。

〇漢方治療の実際 ~漢方専門の医療機関の選び方とコツ~

患者さまは人それぞれ、求めている医療が違います。特に漢方治療はその差が大きいと思います。体調管理から病の治療まで、幅広い医療を提供できるポテンシャルがあるからです。そのため大切なことは、ご自身に合った医療機関をどう選ぶのか、ということだと思います。ポイントは、「相性」と「意図」、そして「人から直接聞いた口コミ」です。

漢方治療の心得 32 ~体質の見極め~

体質というものを理解しながら治療することが、漢方では大切です。時に気・血や陰・陽と言った見立て以上に、治療効果を左右する「武器」になります。人の病態を5つに分類した森道伯の漢方一貫堂医学は、明らかに体質に根差す治療を推奨しています。また湯本求真は、基本処方の組み合わせを駆使してやはり体質治療を試みています。

三寒四温

この時期に起こりやすい体調不良としては、酒さやホットフラッシュなどの火照りが挙げられます。そして次に多いのが自律神経の乱れです。特に精神面にその乱れが顕著に現れてきます。春の火照りや気持ちの乱れ。漢方では昔からこの現象に着目していて、春は植物の芽吹く時期、故に外界の気が昇発するからそうなるという理屈で説明されています。

■症例:起立性調節障害(OD)

起立性調節障害と診断された女の子。近くの漢方薬局で補気の名方・補中益気湯をもとにした煎じ薬で一旦良くなったが、再発。その処方が間違いだとは言えないが、再発してしまう状況を鑑みると、正しいとも言えない。私が感じたのは「気」ではなく、むしろ「水」だった。水の失調。今回の病では、的確な「治水」が行えるかどうか、それが全てである。

漢方治療の経験談「陰部湿疹・陰部掻痒症治療」を通して

私の経験上、「陰部湿疹」や「陰部掻痒症」は漢方治療によって改善可能な病です。薬方選択においては、皮膚病治療の大枠を捉えておく必要があり、さらに陰部に起こるという特殊性を鑑みることが重要です。単に「十味敗毒湯」や「黄連解毒湯」、「竜胆瀉肝湯」や「加味逍遙散』などの処方のみでは効果を表しません。

睦月(むつき)の嵐

低気圧が引き金になって起こりやすい症状には、胃のもたれや胃痛、食欲の低下や吐き気のほか、頭痛や耳鳴り、動悸や息苦しさ、不眠や疲労倦怠感・体のだるさなどが挙げられます。『傷寒論』を基本とした病治の原則に加えて、さらに考察の余地がある新たな「傷寒」。近年、そういう難しい状況を今、迎えていることを実感します。